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「Et cetera」
-2016年6月~8月

欲しかったもの

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「リザー!見ろよ!これ!算数のテスト!すごくね?すごくね?」
 幼なじみのロビンが得意げにつきだしてきた算数の答案を見て、リザは肩をすくめた。
「1問間違ってるよ。」
「そこ?なんであえてそこ指摘すんだよ!1問しか間違ってねーだろ!」
「あー、そういうことね。いつもはどれくらい間違ってたっけ?」
「おまえ、ヤなやつだな。もっと褒めてくれよ。俺って褒めて伸びるタイプだし。」
「そういうこと自分で言う?」
「かーちゃんが言ってたんだよ!かーちゃんなら褒めてくれんのにな。おまえも褒めてくれよ。」
「はいはい。ロビン君、すごいねー。よく頑張ったね-。偉い偉い。」
「棒読みすんな!」
 漫才のようなやりとりに、各々帰り支度をしていたクラスメートがドッと笑った。
「ロビン。そういうことはリザの答案見てからいいなよ。」
 エマが笑いながらロビンの肩を叩くと、ロビンは口を尖らせ横を向いた。
「こいつの点数がいいことはわかってるよ。いいな、リザ。いっつも100点でさ。みんなに褒められまくってんじゃん。俺だってたまには褒められてーよ。」
「お母さんが褒めてくれるんだからいいじゃない。」
「かーちゃんは親なんだから褒めるのは当たり前だろ。俺は!みんなに褒められてーの!」
 親だから褒めるのは当たり前。
 帰り際にロビンが口にした何気ない一言は、リザの心に魚の小骨のように刺さっていた。
 リザの父親は娘を褒めるような親ではなかった。
 母はリザが学校にあがる前に亡くなっていた。
 みんなに褒められるリザをロビンは「羨ましい」と言ったが、母親に褒めてもらえるロビンのことがリザはずっと羨ましかった。
 誰に褒められたところで、嬉しくもなんともない。
 本当に褒めて欲しい人は1人きりだった。
 しかし無い物ねだりをしたところで仕方がない。
 リザは気持ちを振り切るように前を見据えて歩いた。
 学校から帰ると、リザはテストをダイニングテーブルの上に置いた。
 鞄を部屋に置き、晩ご飯の支度をしようとキッチンに降りると、父親がそのテストを見ていた。
 リザは息を詰めて父親の反応をじっと窺っていたが、彼はテストの答案をテーブルに置き、リザには何も告げずリザの横をすり抜けて上に向かった。
 止めていた息を吐き出して、リザは100点と書かれたテストを手にとった。
 今日も何も言われなかった。
 テストの度にドキドキしながら父親を見つめる自分が惨めだった。
 リザはテストを手の中でぐしゃりと丸めて、ゴミ箱に放り込んだ。

「おかさーん!見て!100点!」
「ルミも100点!すごい?」
 学校から帰ってきた双子は、鞄を放り出してリザにぎゅっと抱きついた。
「2人とも100点?すごい!頑張ったのね。」
 リザは床にひざをついて、飛びついてきた双子を抱き留めた。
「それで?その100点の答案はどこ?」
「鞄の中!」
「先にそっち見せてよ。」
「だめ!あとで!ギュッてするのが先!」
「子どもは褒めて伸びるんだよ!ちゃんと褒めて!」
「はいはい。2人ともすごいわ。チュウもサービスしちゃう。」
 きゃあきゃあ言いながら喜ぶ双子を抱きしめながら、リザの心の1番奥が小さく疼いた。
 遊んできまーす、と言って結局テストを出さずに飛び出していった双子を見送っていると、ロイがポンとリザの頭に手を置いた。
「どうかしたのか?」
「何がですか?」
 きょとんとして訊き返すと、ロイはリザの頭をなでながら微笑を浮かべた。
「いや・・・。なんか一瞬痛そうな顔したから。」
 リザは目を瞠った。
「そうですか?・・・あ、でも言われてみればそうかも。」
「何が?」
「一瞬昔のことを思い出しました。それで切なくなったのかも。」
「昔のこと?」
「父はこんなふうに褒めてくれたことはなかったな、って。」
 リザの言葉に、ロイは虚を突かれたような顔をした。
「ちょっと子どもたちが羨ましくなったのかもしれません。私もこんなふうに褒めてもらいたかったな、って。」
 リザの言葉を聞き終える前に、ロイはリザをギュッと抱きしめた。
「あの・・・ロイさん?」
「もっと早く言えばいいのに。」
「早くって?」
「私でよければいつでもこうして抱きしめて褒めたげるぞ。」
「何か褒められるようなことしましたっけ?」
「君はいつも頑張ってる。子どもたちも私も君が大好きだ。師匠だって君が大好きだ。でもあの人は気持ちを表すのが下手だったな。」
「・・・そうですね。」
「もしできるなら子どもの君を抱きしめてあげたいよ。君はすごいな。本当に頑張ってるな。偉いな、って。あの時そうしてればよかったな。もっともっと、いっぱい子どもの君を褒めてあげればよかった。」
 そう言われて、またリザの心の奥が疼いた。
 思いがけず涙が出そうになって、慌ててきつく目を閉じる。
 ゆっくり息を吐いて、気持ちを落ち着かせて、そこでやっと気づいた。
 今疼いているこの部分は、たぶん満たされなかった子どもの頃の私だ。
 子どもたちのように「褒めて」と父に言えばよかったのかもしれない。
 褒めてくれるお母さんがいて羨ましい、と正直にロビンに言えばよかったのかもしれない。
 言葉が足りなかったのは、父もリザも同じだ。
「ロイさん。私は頑張ってますか?」
 リザがそう訊くと、ロイは優しくリザの背中をなでた。
「うん。頑張ってる。すごく頑張ってるよ。」
「じゃあもっと褒めてください。」
 唇を噛んで我慢するしかできなかった子どものリザをあやすように、ロイはリザの髪をわしゃわしゃとなでまわした。




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