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「Et cetera」
-2016年6月~8月

 ←トンボ玉 →彼女のセンス
 まだ少ししびれている足を引きずるようにして家路を急いでいると、ハボックの目の前を小さな光が横切った。
「ん?蛍?」
 足を止めて、ハボックはあたりを見回した。
 イーストシティを流れる一級河川の傍流にあたるさほど広くもない川には、よく見るとたくさんの蛍が心許なくフワリフワリと光っていた。
「へえ、知らなかったな。」
 蛍を見に来たらしい人たちが、川沿いをゆっくり歩いている。
 その中に見慣れた金髪を見つけて、ハボックは目を丸くした。
「・・・大尉?」
 よく見ると隣にいるのは黒髪の上司だった。
 黒い髪、黒いシャツ、黒いスラックスという黒ずくめの格好で見にくかったのだ。
 おまけに連れてる犬も黒ときている。
 2人は手を繋ぎ、時折蛍を見ながら足を止めては楽しそうに話していた。
 その様子はすっかり家族として馴染んでいて、ハボックは不思議な気持ちでそれを眺めた。
 約束の日以降、一緒に暮らすようになったとは聞いていたが、職場の2人は依然として上司と部下だった。
 大尉が准将を叱りつけ、尻を叩いて職務を回す。
 こっちにきて大尉も役職付きとなったので、大尉は准将の面倒に加えて部下に指示も出さねばならない。
 前にも増して殺気立っている様子の大尉に内心戦いていたのだが、今前を歩いている彼女にそんな様子はみじんも感じなかった。
 内緒話をするように、准将が大尉の耳に口を近づける。
 その際に何かいたずらでもしたのか、大尉はばっと手を離して耳を押さえ、准将をにらんでその肩をバシバシと叩いた。
 准将はというと、してやったりとドヤ顔で、「痛い痛い」と言いながら笑っている。
 なんだろう、この筆舌しがたい虚無感は。
 ハボックは肩をすくめ、「大尉!准将!」と声をかけた。
「なんだ、ハボックか。」
「少尉。今帰り?」
 2人は特に驚いた様子もなく、振り向いてそう言った。
「おまえ、1人か?」
 准将はハボックにそう訊いた。
 さっき離れていたはずの手は、既にしっかりと大尉と繋がれている。
「1人ですけど。何でですか?」
「ここは有名なデートスポットだぞ。男1人で虚しくないか?」
「余計なお世話っすよ。ここ抜けるのが一番近道なんですよ。そういうお2人はデートっすか?」
 半ば自棄になってそう言うと、察しのいい大尉は非難するような目を向けて准将の肩をつついた。
「少尉、ご飯はすんだの?」
 大尉の優しい問いかけに、涙が出そうだ。
「いや、これからっす。つってもそこらへんで弁当でも買う予定ですけど。」
「うちにくる?パスタだけど。」
「おい、リザ。」
 准将は不服そうに口を尖らせた。
「なんでこいつなんか誘うんだ。いちゃいちゃできないじゃないか。」
「いちゃいちゃなんてしませんよ。何言ってるんですか。」
「なんで?」
「何でって。明日も仕事でしょう。ご飯食べたらさっさとお風呂入って寝ますよ。」
「明日も仕事だから英気を養うんだ。」
「はいはい。英気は勝手に養って下さってかまいませんが、少尉を夕飯に誘うくらいいいでしょ。」
「言っておくがハボックがいるからって私は我慢しないぞ。」
「・・・何をですか?」
「いちゃいちゃだ。」
「・・・少尉と?」
「気持ち悪いこと言うな!君とに決まってる!」
 目の前で繰り広げられる惚気としか表現しようのない言い合いに、ハボックは脱力した。
「ああ、大尉。お気持ちだけもらっときます。俺も早く帰って寝たいんで。」
 もちろんそれは言い訳で、女日照りの身にこの無意識のラブモードは精神的にちょっとキツい。
「そう?遠慮しなくていいのに。」
 ハボックの葛藤などまったく気づかない様子で、大尉はちょっと小首を傾げた。
「ほら。ハボックはいらんと言ってるじゃないか。」
 准将はニヤニヤしながら大尉の肩を抱いた。
 この人は絶対わかってやってるに違いない。
 歯軋りしたくなるのをこらえながら、ハボックは引きつった笑みを浮かべた。
「じゃあな、ハボック。早く誰か一緒に歩いてくれるといいな。」
 准将は大尉を促すと、さっさとハボックに背を向けた。
「なんであんな意地悪言うんですか。」
「なんであいつを家にいれなきゃいけないんだ。」
「部下を労ってもバチは当たらないと思いますけど。」
「そういうのは外でやるんだ。」
「ヒューズ准将はよく来てたじゃないですか。」
「別に呼んだわけじゃない。あいつが勝手に来てたんだ。君と2人きりのとこを邪魔されてあれもイライラしてたんだ。」
「へー、初めて聞きました。」
 あれ?この2人が一緒に住みだしたのって最近だよな。
 なんでヒューズ准将が押しかけてイライラなんて話になってんだろうな。
 一瞬、心に疑問が浮かんだが、ハボックは自分のために、それを押し込めてふたをした。




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