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「Et cetera」
師弟と親子

師弟と親子|1

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 電話が鳴ったその時から嫌な予感はしていた。
「あ、わしだけど。」
「ご無沙汰しています。」
 それは妻の父親だった。
 ホークアイはこの男が嫌いだった。
 向こうもホークアイのことが嫌いだろうから、お互い様だとは思う。
 しかしホークアイは妻と駆け落ちして苦労をかけたことに、向こうは向こうで結婚を反対したことに負い目がある。
 それ故に正面切って対立することはなく、これまでは一切の関与を避けてきた。
 妻が亡くなったときを最後に連絡は途絶えていたのだが、一体どういう風の吹き回しなのか。
 妻の忘れ形見である娘の養育についてだけは、断固として受け入れられない。
 ホークアイは慎重に、しかし礼節はわきまえた上で彼の言葉を待った。
 しかし彼の用事は予想外のことだった。
「君宛にね、紹介状を書いた。断り切れなくてね。」
「紹介状?」
 ホークアイは眉をひそめた。
「仕事上お世話になってる方の息子さんだよ。ああ、その人自身は軍とは無関係だから。なかなか優秀な息子さんらしくてね、腰を据えて錬金術を学びたいそうなんだ。」
「私は弟子をとっておりませんが。」
 ごく控えめな表現で暗に断ったつもりだったが、義父は「そうか、すまない」などという殊勝な男ではなかった。
「錬金術のことはわからんよ。わしは紹介状を書いただけ。週末にはそちらに行けるそうだから、あとはそっちで判断してくれる?いきなり訪問されても困るだろうと思って連絡したんだよ。気が利くだろ?」
 勝手に紹介と訪問を取り付けておいて、気が利くだろう、とは身勝手な言いぐさだ。
 ホークアイはこめかみがひきつったが、「不愉快だ」と丁寧に伝えられる語彙をあいにく彼は持ち合わせていなかった。
「名前は?」
 憮然としたままそう訊いた。
「マスタング君。ロイ・マスタング君だよ。年は12か13かそのへんだったかな。別に連絡も報告もいらんから君の好きにすればいいよ。」
 それだけ言うと、ホークアイの返事も待たず義父は一方的に電話を切ってしまった。
 ホークアイはため息をついた。

 成り行きから弟子にしてしまった少年は、まあ思っていたよりは使えそうだった。
 やけに達観したような態度と、やたら自尊心が高そうな所はあったが、親の躾が行き届いているらしく年の割に礼儀はわきまえているようだ。
 なかなか油断のならない目をしていた、とホークアイは彼の母親を評価していた。
 紹介状を受け取ったときのホークアイの態度から、義父との関係について見透かしたような顔をした。
 さすがあの狸の知人だけのことはある。
 しかし「すべてお任せします」と言って頭を下げたその態度に、不信感のようなものはまったくなかった。
 何か錬成してみろ、と言うと、彼は自信たっぷりにがたついていた椅子やテーブルを直してみせた。
 なるほど。才能にかまけて基礎をおろそかにしている典型的なタイプだ。
 ここでおもしろくもなんともない基礎理論を反復し続けることができるかどうかが、彼の錬金術師としての格を決めることになるだろう。
 つまらない、と投げ出してしまうならその程度だということだ。
 さて育てるとはいえ、一体どこから手をつけるべきか。
 考え事をしながら娘の部屋の前をとおると、笑い声が聞こえた。
 そのことに驚いて、ホークアイは足を止めた。
 リザが、母親が死んでからほとんど笑うこともなく、最近ではホークアイとほとんど話もしようとしないリザが声を出して笑っている。
 耳をすますと、マスタング少年と一緒にいるようだ。
 人見知りで、初対面の相手にはほとんど無表情を崩さず、訊かれたことにも少ない言葉でしか対処しようとしない娘が、彼の話を聞いて、自分の言葉で意見を返して、彼のジョークに笑っている。
 言いしれぬ感情が、ホークアイの中で渦を巻いた。
 なんだこれは。娘のこんな楽しそうな声を、私は聞いたことないぞ。
 自分の中に湧いて出た苛立たしい感情を、ホークアイは冷静に分析した。
 たぶんこれは嫉妬か。
 昨日今日突然我が家に踏み込んできた小僧が、気むずかしいはずの私の娘とこんなにうちとけている。
 それが妬ましい。
 そこまでの考えに至り、ホークアイは踵を返した。
 どうやら遠慮はいらないようだ。
 そう思ってホークアイは分厚い錬金術書を本棚から取りだした。
 錬金術書としては初心者向けの基本書だが、とにかく重くて長くて読みにくい。
 私の修行に耐えきれない、というのならその程度なのだろう。
 わざわざこちらが気を遣って優しくしてやる必要はない。
 リザと上手くやれるのは大いに結構なことだが、あれほど親しくなる必要はない。
 まったくない。
 ヤツは勉強をしにきたのだ。その点をきっちりわからせてやる。
 いつになく鼻息を荒くしながら、ホークアイはマスタングへの修行プランを練った。





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