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「Et cetera」
師弟と親子

師弟と親子|2

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 与えられた部屋のデスクに突っ伏して、ロイは完全にへこたれていた。
 優秀な自負はあった。自分の才能は人並み以上であると根拠のない自信にあふれていた。
 それを師匠に叩きつぶされた。木っ端みじんに。
「この本を読んで要点をまとめろ。」
 それが師匠から最初に与えられた課題だった。
 渡された基本書はとてつもなく分厚くて読みにくいものではあったが、さほど難解な内容ではなかった。
 ロイは一晩でそれを読み切り、意気揚々とレポートを師匠に提出した。
 しかし師匠はそれをただパラパラとめくりながら眺め、ロイに突っ返した。
「やり直しだ。」
 ロイは耳を疑った。
 しかし師匠はもはやロイには目もくれず、自分の研究に戻ったようだった。
 ロイは自分のレポートを見直し、再び基本書を手にとった。
 書き込みが甘かったか、不備不足があっただろうか。
 今度は3日間かけて基本書を熟読し、何度も手直しを加えながらレポートを書き直した。
「やり直しだ。」
 前とは厚みが2倍になったレポートを提出すると、今度は師匠は中身を見もせずにそう言った。
「あの!師匠!」
 今度はロイも言い返した。
「中も見ずにやり直しとはどういう意味ですか。」
「見るまでもないということだ。」
 師匠は淡々と抑揚のない声でそう言った。
「不満ならやめていい。」
「やります。」
 ロイはレポートを受け取り、一礼して下がった。
「くそ!くそ!」
 なんだ、何が足りない?
 ロイは基本書を片手に、自分のレポートを見直した。

「・・・大丈夫ですか?」
 リザの部屋に紅茶を持って行くと、彼女にそう言われた。
「マスタングさん、目の下真っ黒ですよ。」
「レポートのオッケーがもらえないんだ。」
 ロイは肩を落として、リザのベッドに背を預けるようにして座った。
 提出する度に分厚くなるレポートだったが、最近の師匠はチラリと一瞥して「やりなおし」というだけだった。
 もはや何を書いていいのかわからない。
 ロイはすっかり途方に暮れていた。
「師匠、俺のレポート手にもとらないんだ。ひどくないか?」
「え?それって全然見てない、ってことですか?」
 リザは首を傾げた。
「見ない。ていうか、師匠が見たのって一番最初だけだ。それもぱらぱらとめくっただけって感じで。」
「いくらなんでもそんな理不尽な人じゃないと思うんですけど。」
 リザはしばらく手を口に当てて考え込んだ。
「マスタングさん、一番最近のレポート見せてもらっていいですか?」
「いいけど。リザも錬金術わかるの?」
「いいえ、まったく。でも手も触れない、ってことは中身以前の問題じゃないかと思って。」
 中身以前の問題?
 ロイは怪訝な顔で、自分の部屋からレポートを持ってきた。
「ほら、これなんだけど。」
「え?これ?分厚っ!」
 リザは驚いたように声をあげた。
「マスタングさん、これじゃだめですよ!うちのお父さん、こういうの厳しいんですよ。」
「え?何が?」
 4歳も年下の少女に見た瞬間だめ出しをされ、ロイは面食らった。
「要点をまとめろ、って課題でしょ?」
「そう。」
「これ、全然まとまってませんよ。」
「なんで中も見ずにそう思うんだ?」
「要点をまとめろ、ってことはつまり、一番大事なことをできる限り簡潔にまとめろ、って意味ですよ。」
「うん。」
「これ、全然簡潔じゃないですよ。余計なこと書きすぎじゃないですか?」
「え、書きすぎ?書きすぎか!」
 目から鱗が落ちたロイは、素っ頓狂な声をあげた。
「どんな本もA4用紙1枚で大抵はきれいにまとまる、ってお父さん言ってたことありますよ。」
 リザの言葉に、ロイは唖然とした。
「A4用紙1枚?そりゃ簡単な本ならそうかもしれないけど・・・」
「どんな本も、です。」
 リザにそう言い切られ、ロイは考え込んだ。
「つまり・・・本当にその本の本質をきちんと理解できれば言葉はそれほど必要じゃない?」
「たぶん。」
「つまり、レポートが分厚くなればなるほど、俺は本質から遠ざかっている?」
「遠ざかってるというよりは、見失ってる感じですね。」
「そうか。それならそう教えてくれればいいのに!」
 ロイががっくりと肩をおとして愚痴ると、リザは苦笑した。
「ごめんなさい。優しくないですね、うちのお父さん。」
「・・・いや。俺が甘えてた。」
 ロイは顔をあげると、リザの額に軽く唇をつけた。
「ありがとう、リザ。もう一回頑張ってみる。」
「どういたしまして。私も自分の宿題が終わったら、何か差し入れに行きますね。」
「うん。よし、じゃあまた。」
 ロイは部屋に戻ると、これまで苦心惨憺して仕上げたレポートを躊躇なくゴミ箱に放り込んだ。
 それからもう一度基本書を開き、まずは目次から簡単に流し読みをするところから始めた。

「悪くない。」
 なんとかA4用紙1枚にまとめたレポートを提出すると、師匠はぼそりとそう言った。
「まだ無駄は多いが少しはマシになった。及第点だ。」
 ロイがほっと息をつくと、師匠はレポートをロイにつきつけ、目を眇めた。
「次は考察だ。」
「・・・は?」
「この本について考察をまとめてこい。」
 ・・・錬金術師への道はまだはるか遠い。





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