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「Et cetera」
師弟と親子

師弟と親子|4

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 今日から1週間、師匠は留守である。

「夏期集中講義?」
 その話を聞いて、ロイは怪訝な顔をした。
「誰が?」
「私だ。」
 ホークアイは重々しく頷いた。
「どちらで?」
「イーストシティの私立大学だ。」
「錬金術の発展のため、押しかけ講義の営業にでも行くんですか?」
「おまえ、だんだん無礼になってきたな。」
 ホークアイは顔をしかめた。
「ちゃんと招かれている。依頼状が来た。」
 ホークアイが差し出した依頼文書を受け取り、ロイは目を瞠った。
 少なくとも東部では名門と呼ばれる私立大学だ。
「師匠。まさか講義を持つためにこの大学を脅迫したとか?」
「そんなわけあるか。」
「だっておかしいですよ!そもそも師匠みたいな顔も声も性格も怖い田舎の一錬金術師に講義の依頼とか!有名なわけでもないのに!」
 ホークアイはロイの頭をおもいっきり殴った。
「私の母校だ。」
「あ、師匠。大学出てるんですね。」
 一発でこぶのできた頭を押さえながら、ロイは言った。
「博士の学位は持っているし、そこで学者として身を立てる予定だった。」
「予定だった、って。なんでそうしなかったんですか?」
「結婚に反対されて駆け落ちした。」
 人生の修羅場をあっさり暴露され返事に困ったが、ロイは何も聞かなかったことにした。
「そこの教授に恩があって断れん。今年限りだ、と毎年念を押すんだが毎年依頼が来る。」
 ホークアイはそう言ってため息をついた。
「とにかく1週間は帰れん。その間、貴様は・・・」
「はいはい。真面目に一生懸命勉学に努めますよ。」
 そう言ってロイは肩をすくめたが、ホークアイは首を振った。
「そんなことは当たり前だ。そのことじゃない。」
「じゃあ何ですか?」
 ホークアイは殺気を帯びた目で、ぐいっとロイに顔を近づけた。
「リザに手を出すなよ。」

 ・・・ ・・・

「出すわけないでしょ!」
 ロイが目を剥いて抗議すると、ホークアイもまた声を張り上げた。
「リザはかわいいだろ!」
「そうですけど!そりゃまあ、リザはかわいいですよ!かわいいですけど!」
「やはり貴様、下心があったか!」
 獣がうなるような低い声でそう言われ、ロイは慌てて首を振った。
「ないです!ていうか4つも下だし!俺はロリコンじゃありません!」
「つまり貴様、8歳下の妻と結婚した私がロリコンだと言いたいのか?」
「師匠と奥様の年齢差なんか知るわけないじゃないですか!ていうか!違うでしょ!10代と20歳以上じゃ!」
「妻は19だったぞ。」
「そりゃ結婚反対されますよ。常識とか良識とか段取りとか根回しとかあるでしょう。せめて20過ぎるまで待つとか。」
「既成事実を優先した。」
「・・・俺が親でも激怒します。ていうか同じこと俺がやらかしたら、母に前後不覚になるまでボコられたあと市中引き回しのうえ問答無用で去勢されます。」
「幸いなことに私の親は早世していたんでな。」
「叱られなきゃいいってものでもないでしょう。」
 たたみかけるようなロイの非難を、ホークアイはうるさそうに手を振って止めた。
「貴様の説教なんかどうでもいい。リザのことだ。」
「だから4歳も年下の子なんて女じゃないって。」
「節操無しの貴様の言うことなんか当てになるか。」
「出来婚の師匠に言われたくないです。俺はどっちかというと年上好きなんですよ。100歩譲って同級生。」
「リザはそういう男の趣味嗜好を凌駕してかわいい。」
「どんだけ親ばかですか、まったく。で?俺はどうすればいいですか?師匠が留守の間は実家に帰りましょうか?」
 いい加減バカらしくなって投げやりにそう言うと、ホークアイは鼻で笑った。
「バカ言え。留守の間に何かあったらどうする?」
「去年まではどうしてたんですか?」
「心配はしていたが何もなかった。」
「・・・心配だけして何もしてないってことですね。」
 ロイは目を眇めて睨んだが、ホークアイは動じることなく腕を組んだ。
「過去の話はしとらん。これからのことだ。」
「はいはい。」
「貴様、リザに近づいたら許さん。」
「指一本触れませんよ。」
「半径50メートル以上は離れろ。」
「家に入れません。」
「野宿しろ。」
「嫌です。」
「まったく生意気な小僧だ。かわいくない。」
「俺がかわいい必要はないでしょう。」
 ロイは呆れたように言った。
 ホークアイはすっかりふてぶてしくなった弟子を見つめ、唇の端を歪ませてロイの額に手を当てた。
「ロイ、人体の7割は水分でできている。」
「・・・はあ?」
 突然ホークアイが触れてきたことにも、言っていることにも意味がわからず、ロイは曖昧に返事をした。
「その水分子をな、高速で振動させると発熱することができるんだ。人1人蒸し上げるくらい造作もない。」
 ようやく言わんとすることを察し、ロイは引きつった。
「いいか、ロイ。リザに何かあったら、私は躊躇なく、貴様の脳みそを沸騰させるぞ。」
「何も起きません!誓います!」
 両手をあげ、ロイはうわずった声で叫んだ。

「リザ。水分子を高速振動させて発熱するとかできると思うか?」
「?理屈はわかりませんけど、冬になるとお父さんがよくやってますよ。」
「よくやってる?」
「空気中の水分を錬金術であっためてます。マスタングさんは真似しない方がいいですよ。」
「どうして?」
「加減を間違えると、サウナ状態どころか、過熱水蒸気で人が茹だっちゃうって。」
「・・・冗談だよな?」
「うちのお父さん、冗談言うと思います?」
「思わない。まったく。」





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