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「Et cetera」
師弟と親子

師弟と親子|5

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 どうやら台風が近づいているらしい。
 窓枠が強風の煽りを受けて、ガタガタと音をたてている。
 ラジオでは交通情報や地域別注意報や警報、今後の台風の予想進路を延々と流していた。
 イーストシティは台風が直撃したらしく、すべての交通機関がストップしているようだった。
 幸いホークアイ家周辺はまだそれほどの影響はない。
 おそらくはこれから夜にかけて、雨風がひどくなってくるだろう。
 庭に出ていたリザが、勝手口から大量の野菜を持って入ってきた。
「まだ雨は降ってませんけど、すごい風ですね。」
「台風だからな。外に出ちゃダメじゃないか。」
 ロイは慌ててリザに駆け寄り、野菜かごを取り上げた。
「食べれそうなお野菜は全部とってきました。あと畑にビニールもかけてきました。」
「かけてきました、って!既に過去形?」
 ロイが驚いて声を上げると、リザは小首を傾げた。
「はい。こういうのはてきぱき急いでやらないと。」
「てきぱき急いでやるのはいいことだけど、一声かけてくれれば手伝うのに!」
「あ、そうですね。じゃあ次はそうします。」
 リザは笑顔で頷くと、今度は夕飯の支度を始めた。

 ロイが夕飯の食器を片付けて、紅茶を淹れる頃になると、外はいよいよ嵐の様相を呈してきた。
 窓に叩きつけられる雨音や木々をなぎ倒さんばかりに猛る風の音は、別に臆病でもないロイでも多少の不安を煽られた。
 リザは大丈夫だろうか。
 紅茶を持ってリザの部屋に入ると、勉強していたらしいリザが振り向いて微笑した。
「マスタングさん。」
「紅茶持ってきたよ。」
 ロイはいつものようにリザの机にカップを1つおき、自分はリザのベッドに背をもたせかけて座った。
「ありがとうございます。」
 リザは両手で包むようにカップを持ち、一口飲みかけて、それから思い直したようにカップを下げた。
「あの・・・、マスタングさん?」
「ん?どうした?」
「そっち、座ってもいいですか?」
 遠慮がちにそう申し出たリザを、ロイはきょとんと見つめた。
「いいよ。おいで。」
 リザはカップを持ったまま、ロイの隣に座った。
「・・・すごい風ですね。」
 ゆっくり紅茶をのみながら、リザは呟くようにそう言った。
「台風だからな。明日には通り過ぎてるよ。」
「お父さん、どうしてるでしょうか?」
「大丈夫だろ。イーストシティの方はもう落ち着いてるんじゃないかな。」
「・・・そうじゃなくて。」
 リザはそこで言葉を切ると、うつむいたまま黙り込んだ。
「リザ?」
 リザの様子を怪訝に感じ、ロイはリザの顔を覗き込んだ。
「・・・お父さん、ちゃんと帰ってきますか?」
 しばらく沈黙したあと、リザは早口でそう言った。
「え?ちゃんとって?ちゃんとかどうかは知らないけど、明日帰ってくるって言ってたじゃないか。」
 どこか切羽詰まったリザの声に、ロイは面食らった。
「帰ってこなかったら?」
「師匠が?なんで?」
「お父さん、帰ってこなかったらどうしよう。」
 リザの泣き声に、ロイは息を飲んだ。
「リザ、落ち着いて。」
 ロイは自分のカップをリザの机に置いた。
 それからリザのカップの中もほとんど残っていないことを確認し、それを取り上げて自分のカップに並べた。
「師匠はちゃんと帰ってくるよ。」
 どう言って慰めていいのかわからず、ロイはおろおろした
「台風で不安になっちゃったのか?大丈夫。師匠はちゃんと帰ってくるし、俺もいる。師匠が帰ってくるまでここにいようか?」
 リザは嗚咽をこらえるように、頑なにぎゅっと唇を噛んでいた。
 リザに近づくな、と睨んだ師匠の顔がちらりと浮かんだが、ロイはそれを追いやってリザの手を握った。
「・・・ごめんなさい。」
 ため息をつくように、リザは言った。
「ときどき怖くなるんです。このままひとりぼっちになっちゃったらどうしよう、って。いつもは我慢して布団かぶって眠っちゃうんですけど。・・・マスタングさん、優しいから。甘えてごめんなさい。」
 これほど寂しい「ごめんなさい」を、ロイは初めて聞いた。
「師匠に言わないの?1人で留守番するのは寂しいって。」
「そんなわがままは言えません。」
「わがまま?」
「わがまま言って困らせたくないんです。嫌われたくないから。」
 ロイは絶句した。
 嫌われると思ってるのか?こんな小さな子どもが自分の親に?
 そもそも怖いだの寂しいだのなんて感情を吐き出すのが、わがままであるわけがないのに。
「師匠は君を嫌いになんてならないよ。」
 凝り固まったリザの気持ちをほぐすには明らかに不十分だったが、 ロイではそう伝えるのが精一杯だった。
「言ってもいいよ。1人は怖い、って。不安で寂しい、って。それくらい言ったって、師匠は君を嫌わないよ。」
 リザは何も言わなかった。
 愛されている自信がなければ、甘えることは難しい。
 両親を早くに亡くしたロイも、そのことは身をもって知っていた。
 ただリザとロイに違いがあるとすれば、ロイは養母の自分に対する愛情を疑ったことは一度もなかった。
「師匠を困らせたくないんだな、リザは。」
 一生懸命考えて、ようやくロイはそう言った。
「・・・じゃあ俺になら言える?」
 驚いて顔をあげたリザの腕を引き寄せて、ロイはリザを背中から包むように抱きしめた。
「1人は怖い、不安で寂しい、って俺に言えばいい。俺はそれでリザを嫌いになったりしないし、それをわがままだなんて思ったりしないから。ずっと側にいる。リザがもう大丈夫、って笑えるようになるまでずっとこうしてるから。」
 だからもう1人で我慢なんてするな。
 そう伝えると、リザは涙に濡れた顔を隠すように、自分のひざに顔を伏せてしまった。
 かすかに漏れる嗚咽がやがて寝息に変わるまで、ロイはずっとその背中を抱きしめていた。





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