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「Et cetera」
師弟と親子

師弟と親子|6

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 台風が近づいていた。
 夕方リザが買い物に出たときは小雨が斜めに流される程度だった風が、今は街路樹が倒れそうな勢いで吹き荒んでいる。
 まだ子犬のハヤテ号は初めての嵐にすっかり怯えてしまい、しっぽを丸めてリザから離れようとしない。
 大佐は大丈夫かしら。
 ハヤテ号をなだめながら、リザは恋人を慮っていた。
 今日は車で帰ってきてください!
 今朝はそう言って送り出したのだが、なにしろ本人が自分の身の安全について無頓着なところがある。
 なんとなく落ち着かない気分で、リザはわしゃわしゃと子犬をなでまわした。
 その時、ぴくりとハヤテ号の耳が動いた。
 がちゃ、と玄関のドアが開く気配。風の音が一瞬大きくなり、すぐにまた遠ざかった。
「中尉ー!ただいま。」
 リザが立ち上がるよりも早く、ハヤテ号が玄関に駆けていった。
「おかえりなさい。早かった・・・ですね。」
 迎えにでたリザは、ハヤテ号を抱き上げて戯れている男を見て唖然とした。
「ああ、中尉。タオルくれる?」
「な、なんでそんなにずぶ濡れなんですか!」
 リザは悲鳴のような声をあげた。
「車は?今日は車でお帰り下さい、って言いましたよね!」
「大通りが渋滞してるらしくてね。車だと大回りしなきゃいけないからかえって手間だし時間もかかるし。で、走って帰ってきた。」
「走って?傘は?」
「司令部を出た瞬間に壊れたから置いてきた。」
 濡れて張り付いた黒髪をオールバックになでつけながら、彼はにこにことしている。
 リザは慌ててバスタオルをひっつかむと、ロイの頭からバサッと掛けて乱暴に拭いた。
「ちょっと!リザさん!もっと優しくして!はげる!」
「こんな台風の日に!外を走って帰ってくるとか!何考えてるんですか!バカですか!何かあったらどうするんですか!」
「大丈夫だったぞ。」
「大丈夫じゃなかったかもしれないでしょ!多少時間かかっても車で帰ってきてください、ってあれほど・・・」
「君をひとりぼっちにしない、って約束したからな。」
 彼の髪を拭いていたリザの手が止まった。
「・・・なんのことですか?」
「ん?怖くて不安で寂しくて泣きそうになってるかもしれない、と思ったら居ても立ってもいられなかったんだ。」
「誰が!そんなわけないでしょ!」
「ちゃんと私は帰ってきたぞ。嬉しいだろ?」
「だから何の話・・・って」
 ちゃんと帰ってきた、というフレーズにふと引っかかるものを感じてリザは黙り込んだ。
「君は知らないだろうけどな。あのあと大変だったんだぞ。君の部屋で眠り込んでた所を師匠に見つかって蹴っ飛ばされて。まさかあの師匠が始発で帰ってくるなんて予想もしてなかったから、完全に不意打ちでさ。手を出すな、触るな、近づくなって言われてたからなおさらだ。『私の警告を無視してリザの部屋に入り込んだということは、当然覚悟はできてるんだろうな』って。殺されると思ったぞ、本気で。」
「・・・いつの話ですか?」
「夏に2人で留守番したじゃないか。あの時もすごい台風だった。」
 あ、と言ってリザは目を見開いた。
「君はとっくに農場のバイトに行ってたのがせめてもの救いだったけど、師匠の目は完全に本気だったぞ。『心配するな。私の焔の錬金術なら壁床天井に煤1つ残さず貴様を灰にできる』とか。怖かった。君が帰ってこなかったら、私は永久に消息不明になるとこだった。」
「まさか。冗談でしょう。」
「あの師匠が冗談なんか言うと思う?」
「・・・思いません。」
 ロイは苦笑して、まだずぶ濡れの服を纏ったままリザを抱きしめた。
「ちょっと!濡れるでしょ!」
「ずっと側にいるぞ、リザ。」
「わかったから離してください!」
「泣いて困らせてわがまま言って、十分甘えたまえ。嫌いになったりしない。」
「わかったから離して!」
「リザ、愛してる。」
 ロイの愛情表現をリザは嫌いではなかったが、それも時と場合による。
 ずぶ濡れのまま抱きつかれてはこちらの服も濡れてしまうし、なにより冷えた体をそのままにしていては風邪を引く。
 リザは腕を突っ張ってわずかにロイとの体の間に隙間を作ると、素早く彼のホルスターから銃を抜いた。
「大佐。離してください。」
 銃口を彼の額に突きつけて微笑むと、彼はばっと両手を挙げた。
「あなたの愛は理解しました。次は私の愛についてご理解いただけますか?」
「えーと、つまり具体的に?」
「玄関先で濡れたままふざけていては風邪を引きます。お風呂の準備はできていますから、すぐに!大至急!急いで!あったまってきてください!」
「イェス!マム!」
「ご飯もできてますから。温めて準備しておきますね。」
「今日のご飯、何?」
「クラムチャウダーと手羽先の唐揚げです。」
「大好きだ!君の愛は理解した!すぐに風呂に入ってくる!」
「ちゃんとあったまってくださいよ。」
 リザの頬に軽く唇をつけ、ロイはバタバタと廊下に足跡をつけながらバスルームに駆け込んだ。
 フローリングワイパーでそれを拭きながら、リザの口元は優しく笑っていた。





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