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「Et cetera」
-2017年11月~12月

酒を飲む|少尉と中佐

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 お酒の味を覚えたのは、まだ学生の頃だった。
 未成年はもちろんアルコール厳禁だったが、軍事国家であるアメストリスにおいて、軍人(それも士官)候補生についてはいろいろと黙認されていることが多かった。
 とはいえ学生の身分では羽目を外して飲めるほど懐が温かいわけでもなく、寮に近いディスカウントストアで安いチューハイやビールを大量に買い込み、仲間同士で分け合って飲んだ。

 イシュバールから戻ってしばらくは精神的に不安定なことが多く、お酒に逃げることも多かった。
 1度レベッカの前で酔いつぶれてしまい、夜の記憶がまったくないままレベッカの部屋で目覚めたときは愕然とした。
「あんた!お酒飲むの下手すぎ!」
 二日酔いで足下も覚束ない私に容赦なく、レベッカは懇々と説教をした。
「飲む酒選ばず、ペースも考えず、休憩もせず、ろくにご飯も食べず飲むからそうなるのよ!昨日は私と一緒だったけど、そうじゃなかったらどうなってたかわかんないわよ!仕事の飲み会で同じことしたら、誰にお持ち帰りされても文句言えないんだからね!」

 おっしゃるとおり、ごもっとも。

 ガンガンと痛む頭を抱えてレベッカの作ってくれたシジミの味噌汁を飲みながら、お酒に逃げるときは必ずレベッカを同伴させることを約束させられた。
 その約束を私は忠実に守っていたはずなのだが、ある日、目覚めた場所がレベッカの部屋ではなく中佐のベッドだった時は、絶望感にも似た衝撃を受けた。
 その後どれほど悪夢にうなされようともお酒に逃げることはやめた。

「君、お酒の飲み方がうまくなったな。」
 マスタング班の飲み会で騒ぐ同僚たちを横目に見ながら自分のペースで飲んでいると、中佐がグラスを持って私の隣に座った。
「飲み方がうまい、ってどういう意味ですか?」
 私が首を傾げると、中佐はくいっとあごで同僚たちをさした。
「あいつらは下手くそだ。」
 なぜか上半身裸のブレダ准尉は部下たちに煽られて、さっきからビールの一気飲みを繰り返している。
 フュリー曹長はもう随分前から真っ青な顔でテーブルに突っ伏していた。
 ファルマン准尉も真っ赤な顔で壁を相手によくわからない蘊蓄を語り続け、ハボック准尉は「オーダーを取りに来た女の子の連絡先ゲットミッション」で敗北記録を更新し続けていた。
「それ、何杯目?」
 中佐は私のグラスを指さしてそう訊いた。
「3杯目ですけどこれはグレープフルーツジュースです。1口飲みます?」
 彼は私のジュースを1口のみ、顔をしかめた。
「苦い。」
「そうでしょうね。」
 私は苦笑して、ゆっくりジュースを飲んだ。
「3杯目はグレープフルーツジュースって決めてるんですよ。」
「なんで?」
「グレープフルーツはアルコールの分解を促進するらしいです。」
「へえ。」
「時間に余裕があったらこのあともう1杯お酒を飲んで、ラストオーダーはホットウーロン茶です。」
「あえてホットなの?」
「あえてのホットです。お酒は飲んでるときは暑いんですけど、酔いが醒めると寒くなるんですよ。」
「論理的なんだな。」
「レベッカに教えてもらいました。」
 中佐は小さく頷いて、自分のお酒をちびりと飲んだ。
「最近、プライベートでは飲んでないのか?」
「たまにレベッカと2人で。」
「君が無茶な飲み方をする、ってカタリナ少尉に相談されたことがある。少し心配していた。」
「そうですか。ご迷惑おかけして申し訳ありません。」
「迷惑じゃない。うん、でもちょっと安心したよ。」
 中佐はそのまま黙り込み、テーブルに目を落とした。
 グラスが汗をかき、テーブルに丸いグラス染みができた頃、なんとなくそわそわと落ち着かなかった中佐が、何かを決意したように軽く拳を握った。
「・・・少尉。」
「なんですか?」
「このあと2人で飲み直さないか?」
 私はまじまじと中佐を見つめた。
 顔をあげた中佐と、目が合った。
「行きません。」
 小さな声で、しかしきっぱりと私は拒絶した。
「私と2人は嫌か?」
「仕事の飲み会後はまっすぐ家に帰りなさい、ってレベッカにキツく言われてますので。」
 その答えに、中佐はきょとんとした。
「酔いに任せて女性を誘う男には絶対ついていくな、とも言われています。」
 そう続けると、中佐は困ったように目尻を下げた。
「やれやれ、さすが君の保護者だ。すべてお見通しか。」
「何がですか?」
「いや、君の親友は正しい。すまん、私が卑怯だった。」
「卑怯?」
 私は首を傾げた。
「この次誘うときは素面の時にするよ。だからこのあと、君を家まで送ることは許してくれるか?」
「私が中佐をお送りするのではなく?」
「君の忠誠心は大いに評価するが、こういう時は男の顔を立てて欲しい。」
「よくわかりませんが家にはあげませんよ。」
「了解。それもカタリナ少尉に言われてるのか?」
「言われました。」
「感謝すべきなのか、余計なことを、と嘆くべきなのか。」
「は?」
「いや、いい友だちだ。世間をよくわかっている。」
「・・・それって私が世間知らずだって聞こえます。」
「気にするな。君が世間知らずなことくらいわかっている。」





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