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「Et cetera」
-2017年11月~12月

ホームにて|大尉と准将

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「久しぶりのイーストシティだ。」
 そう言って彼はホームで背伸びをした。
「なあ、大尉。引っ越しの荷物は全部運んであるんだろう?」
「はい、もちろん。」
「特急とはいえ、やっぱり4時間も汽車に乗ってると疲れるな。なあ、どっかでお茶して帰ろう。食事もすませていかないか?」
 彼は饒舌だった。
 誰かに見られたら、と小言を言いかけて、リザは口を噤んだ。
 もう人目は気にしない、と決めたのだった。
 リザは彼と、何年ぶりかに生活を共にするのだ。
 ・・・しかも今度は2人きりで。
 まだ実感は湧かない。それはおそらくこれからなのだろう。
 同じ部屋に帰り、一緒に食事を取り、同じベッドで眠る頃には。
 勝手な想像で恥ずかしくなってしまったことを悟られないように、リザは足早に歩き始めた。
 大きな荷物は全部新居に送っていた。
 手にあるのは財布などが入った小さなバッグだけだ。
 ホームを出ようとしたとき、チラリと目の端に何かが映った。
 振り向いて確認してみると、空色の汽車がホームを出るところだった。
 突然足を止めたリザを見咎めたのか、ロイは怪訝そうにリザの視線を追った。
「・・・ああ。」
 それだけでいろいろと悟ってしまったらしい彼は、目を細めた。
「あれに乗りたい?」
「・・・そうですね。近いうちに一度帰ってみましょうか。」
 自然とそんなセリフが出てきて、自分でもびっくりした。
 けれども自分の言葉を反芻して、リザは微笑んだ。
 悪くない。
「親不孝な娘ですよね。両親のお墓もずっと放置したままだし。」
「不肖の弟子もついていっていいかな。」
「そんな時間が取れますか?」
「なんとかしてみるよ。」
 彼が力強く頷いたので、リザの笑みは広がった。
「・・・どうして帰ろうなんて気になったんだ?」
 手を繋いで線路沿いの道を歩きながら、ロイは訊いた。
「どうしてでしょうね。」
「じゃあどうしてこれまでは帰ってなかったんだ?そんなに忙しかった?」
「それもありますけど。・・・帰れない、って思ってました。」
「帰れない?」
「あなたと過ごしたあの家に。あの時に。」
「・・・そうか。」
 リザの手もロイの手もきれいだった。
 お互いの側にいるというだけで楽しかったあの時に。
「あの汽車に乗れば戻れるような錯覚を、何度か感じたことがあります。ふっきったつもりで、結局ふっきれてなかったんでしょうね。」
「じゃあもうふっきれたのか?」
 リザの目を覗き込むようにして、ロイは訊いた。
「そもそもあの頃が1番よかったなんて錯覚でした。今が1番です。」
 素直にそう吐露した気持ちは本物だった。
 あの頃、確かに幸せではあったが、関係としては兄妹の域を出ることはできなかった。
 今は違う。これからも。
「今度は2人で乗りましょうね、あの汽車。」
 戻らない日々を惜しむのではなく、懐かしい、と笑い合うために。





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