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「Et cetera」
-2017年11月~12月

カンフル剤

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 今日も昨日もおとといも、大佐はだれていた。
「中尉がいねーと仕事になんねーな。」
 談話室でハボックとブレダが愚痴をこぼしあっていると、ひょい、とレベッカが輪に加わった。
「何?リザの噂?」
「大佐の話っす。」
「中尉がいねーと大佐が仕事しないんですよ。」
「リザ、いないの?なんで?」
「副官講習で南に行ってんですよ。」
 そう言ってブレダはため息をついた。
「もう2日目の朝からずっとダレてんですよ、大佐。中尉はいつ帰るんだ?電話はないか?あと何日だ?中尉、中尉、中尉って。そのうちポエムとか書き出しそうっす。」
「仕事ためて怒られるのも自分でしょうに。」
「小言でいいから中尉の声が聞きたい、だそうです。」
 ハボックは肩をすくめた。
「ほんっと勘弁してほしいっすよ。大佐が仕事サボったら、俺らだって怒られるんっすよ。」
「中尉が怖ぇーのは大佐だけじゃないってのに。」
「ふーん。私がなんとかしたげよっか?」
 さらりとなされたレベッカの提案に、ブレダとハボックは顔を見合わせた。
「・・・なんとかって?」
「大佐のやる気がでりゃいいんでしょ?ラマロンのガトーショコラ、ホール15センチで手を打つわ。」
「合コンやれ、とかじゃないんすか?」
「あんたらにそういう期待はしないわ。どうする?」
 ブレダとハボックは思わず頷き合い、その場でレベッカに土下座した。

「失礼しまーす。大佐、休憩いかがですか?」
 レベッカはコーヒーを持って、大佐の執務室に突入した。
 大佐はデスクに山積みの書類はまったく目に入らない様子で、くるくるとペンを回しながら窓の外をぼんやり見ていた。
「カタリナ少尉か。」
「どうぞ。コーヒー、お持ちしましたよ。」
「・・・中尉のコーヒーが飲みたい。」
 大佐は呟くようにそう言って、悲しそうに息を吐いた。
「無理です。ですがリザの不足している大佐のためにいい物をお持ちしました。」
 ニヤリと笑ってそう付け加えると、大佐は初めてレベッカに目を向けた。
「いい物?中尉か?」
「まずはこちらをごらんください。」
 レベッカはそう言って、手に持っていた封筒から黒っぽいリボンのようなものを取りだした。
「なんだ、これ。ネガ?」
「何が写ってるかわかりますか?」
 怪訝な顔をしながら大佐はそれを、窓の方にかざした。
「・・・少尉!」
「なんでしょう。」
「これ・・・いや、はっきり断言はし難いのだが、これ、中尉か?」
「そうですよ。」
「いや、まさか。あの写真嫌いの中尉が?少尉!」
「なんでしょう。」
「君、わざわざネガを持ってきたってことは、もしかしてプリントアウトしたやつも・・・」
「ありますよ。」
「本当か!」
 大佐はバンッとデスクに手をついた。
 不安定に積み上げられていた書類がバランスを崩して、床に落ちた。
「大佐、落ち着いてください。」
 レベッカは落ちた書類を拾って、元通りデスクに積み直した。
「これは私の秘蔵品ですよ。写真嫌いのリザに『絶対誰にも見せない』って条件で撮らせてもらったんです。いつかリザが結婚するときにでもプレゼントしようと思っていましたが、大佐が『絶対リザに内緒にする』という条件を守ってくださるなら・・・」
「くれるのか?」
 大佐は目を輝かせてレベッカに詰め寄った。
「3万センズで売ってあげます。ネガ付きで。」
 レベッカがにこやかにそう提案すると、大佐はガッツポーズをした。
「3万だな!よし!」
「あと仕事。ちゃんと全部片付けることも条件です。」
「仕事か。」
「とりあえずこのデスクに積まれた書類、全部処理してください。片付き次第取引に応じますので、終わったら内線で呼んでください。」
「わかった!」
「リザが帰ったとき仕事が残ってたら、そのまま残業デートですよ。それでいいんですか?」
「・・・嫌だ。」
「リザの写真があれば頑張れますよね。」
「わかった。・・・少尉。」
「はい。」
「その写真、私以外の誰にも見せてないか?」
「見せてませんよ。そういう条件でしたから。」
「ありがとう。引き続き、誰にも内緒にしておいてくれ。」
 その日、定時1時間も前に取引は無事終了した。
 レベッカはブレダ・ハボック両少尉に大いに感謝され、ラマロンのガトーショコラも翌日きちんと手渡された。
 多少リザに後ろめたいこともあったので、このガトーショコラはリザが帰ってきてからきちんと2人で半分こして食べた。

 そして数年後。
「レベッカ!写真!あの写真!なんでうちの人が持ってんのよ!」
「写真?なんだっけ?」
「お風呂上がりとか寝てるとことか下着姿とか!あれ!学生時代のやつでしょ!」
「ああ!あんたそれ、感謝しなさいよ!」
「なんで!」
「あんたが仕事で何日かいなかったとき、『中尉がいなくて寂しい』ってめそめそしてる大将にあげたのよ。あ、そのときはまだ大佐だったかな?」
「は?」
「私の機転のおかげで、大佐は仕事もためず、サボりもせず、愚痴も泣き言も言わず、あんたが帰ってくるまで真面目に仕事してたんだからね。お礼はラマロンのガトーショコラでいいわ。」
「なんで私がガトーショコラ買う話になるのよ!」





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