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「Et cetera」
-2017年11月~12月

本命

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 幼少時、ロイは無口でおとなしくて人見知りな少年だった。
 特に面倒をかけるような子でもなかったので、店を開けるまではカウンターの隅で勉強をさせたり、食事をとらせたりしていたのだが、どうやらそれがよくなかったらしい。
 ひいき目なしで顔立ちのよかったロイはお店の女の子にたいそう気に入られ、瞬く間に社交性と女性の扱いを身につけてしまった。
 思春期に入った頃には当然のように女遊びも覚えていた。
「好きでもない女とセックスなんてやめな。ばかばかしい。」
 そう叱ると、ロイはきょとんとした顔でマダムを見た。
「なんで俺がそうしてる、ってわかるの?」
「顔見りゃわかるよ、バカ息子。だるい疲れた眠いめんどい、って顔してるじゃないか。」
「そんなつもりないけどな。」
「大体なんで好きでもないのにそんなことしてるんだい?別に欲求不満そうにも見えないじゃないか。」
 マダムの疑問に、ロイは少し考えてから飄々と口を開いた。
「別にセックスしたいわけじゃないけどさ。そういう雰囲気になってそういうことしないのって、女の子に失礼かな、と思って。」
「そういう雰囲気でそういうことしないのがもったいない、ってだけだろ。」
 マダムは頭の痛い思いをしながら、とにかく避妊だけは徹底するようにロイを躾けた。

 愛想がよく細やかな気配りも忘れない一方で、時に冷酷なほど他人に無頓着なロイは、決まった相手と長く付き合うことはないようだった。
 女性へのプレゼントもいつも同じ店の同じお菓子だった。
 そのことを詰られて振られたときも「このお菓子、おいしいのに」と首を捻っている様子に、マダムはため息を隠しきれなかった。
 そんな息子が「ちょっと相談があるんだけど」と言い出したとき、マダムは本気で驚いた。
「女の子にプレゼントしたいんだ。どんなのがいいと思う?」
「あんた!そんな相談してきたことないじゃないか!」
 目を剥いてそう返すと、ロイはばつが悪そうに目をそらした。
「うるさいな。大事な話なんだよ。」
「珍しいこと言うね。とうとう本命を見つけたのかい?」
「からかうなよ。」
 まだ幼さの残る顔で、ロイは不快そうに口を尖らせた。
「そんなんじゃない。師匠のお嬢さんにあげるんだよ。」
「ホークアイ先生の?」
 1度挨拶に行ったときに会ったきりの女の子を思い出して、マダムは首を傾げた。
「まだ小さかったろ?いくつだい?」
「今度10歳になるんだ。」
「いつものお菓子でいいんじゃないか?」
「適当なこと言うなよ。リザに喜んでもらいたいんだ。」
 いつになく真剣な様子に、初めてマダムも態度を改めた。
「殊勝なこと言うじゃないか。らしくもない。」
「俺だってね、たまには真面目になることくらいあるんですよ。」
 わざとらしく生真面目な口調でそう言ったロイに、マダムは少しだけ口元を緩めた。
「ちらっとしか見た記憶ないけどね。そんなにかわいい子だったっけね。」
「かわいいからとかどうとかじゃないんだ。いつもお世話になってるし。おいしいご飯作ってくれるし、家のこと頑張ってるし、勉強もバイトも一生懸命だし。」
「バイト?あんな小さな子が?」
 マダムが訝しげに訊くと、ロイは頷いた。
「近所の農場とパン屋手伝ってる。」
「あたしも人のこと言えた義理じゃないけど、ろくな父親じゃなさそうだね。」
「どうかな。俺も最初そう思ったけど、師匠なりにいい親でありたいらしくはあるんだよな。思ってるだけみたいだけど。」
「まああんたもなんだかんだいって家事押しつけてるだけなら、そのろくでなしの父親と同じだね。」
「箱入り息子で家事を仕込まれてないもんでね。」
 自慢にもならないことを偉そうにのたまったロイの頭を、マダムはバシッと叩いた。
「茶化してないでアドバイスくれよ。アクセサリーとかどうかな?」
 叩かれた頭を庇うように手を当てて、ロイはそう訊いた。
「10歳の子に何を贈る気だい?ピアスだの指輪だのなんて年でもないだろう?せいぜいバッグとか腕時計とか?あんまり高いもの選ぶんじゃないよ。5000センズから1万くらいにしときな。」
「かわいいのがいいかな。リザ、あんまりかわいいの持ってないんだ。どこで買えばいい?俺、あんまり店とかブランドとかわかんなくてさ。」
「日替わりで女の子とデートしてる男のセリフとは思えないね。まあでも少なくとも私に相談する程度の頭があってよかったよ。デートの最中に他の女に渡すプレゼントの相談なんかしたら、半殺しにされても文句言えないからね。」
「あー、うん。それはね。身に染みてる、既に。」
 気まずそうに口ごもる息子に、今度こそマダムは嘆息した。
「・・・やらかしたあとかい、既に。」

「時計、変えたのかい?」
 マダムの質問に、リザはきょとんとした。
「え?」
「いつもと違うのしてるじゃないか。」
 マダムの指摘を受けて、リザは自分の手首に目を落とした。
「ああ、これ。ベルトを変えたんです。」
「ああ。それで違って見えるんだね。」
「ぼろぼろじゃないか、って言われて。長く使ってるので仕方ないんですけど。」
「どれくらい使ってるんだい?初めてうちにきたときはもうしてたような気がするけど。」
「10歳の誕生日にもらったので。10・・・3、4年くらいでしょうか。」
 マダムは目を丸くした。
「あんたね。物持ちがいいにもほどがあるよ。」
「大佐にもそう言われました。」
 情けない顔で眉を下げるリザを、マダムは暖かく見つめた。
「それで?わざわざベルトつけかえてまだ使ってるのかい?」
「ええ。まだ使えるし。」
「新しいの買ってもらったらどうだい?」
 誰に、とはマダムはあえて言わなかった。
「その提案もされたんですけど。いいんです。気に入ってるんで。」
 誰から、ということをリザは言わなかった。
「まあね。あんたがそれでいいならね。でもわざわざおそろいのベルトにするなんてかわいいじゃないか。」
 誰と、とはマダムは言わなかったが、心当たりのあるリザは耳を赤くした。
「な、なんでそれを?」
「ん?昨日飲みに来てたときにね。なかなか特徴的なステッチだったから目に付いたんだよ。」
「やっぱり目立ちますか?」
「目立ちゃしないからそれくらい許してやりな。あの子が独占欲持ちたがる子なんて、あんたしかいないんだから。」





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