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「Et cetera」
-2018年1月~6月

木蓮|少尉と中佐

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「この木蓮、もう蕾が出てますね。」
 公園の木を見上げながら、少尉は言った。
「どれが木蓮?」
「これですよ。ほら、大きな蕾がいっぱいついてるじゃないですか。」
「木蓮、ってどんな花だっけ?」
「丸くて立体的で大きな花ですよ。白とか紫とか。」
「・・・わからん。」
 私がそう言って首を振ると、少尉は苦笑した。
「すぐ咲きますよ。最近暖かくなってきましたから。」
「咲いたら教えてくれ。一緒に見よう。」
 そう言って私は、彼女の手をぎゅっと握った。

 けれどもその春、彼女と木蓮を一緒に見ることは叶わなかった。

「振られたのかい?」
 マダムの店で強めの酒を頼むと、マダムは無愛想な顔でそう問いかけてきた。
「嫌なこと言うなよ。」
 私は顔をしかめてそう抗議した。
「不景気な顔してるじゃないか。」
「自分を疎んでる人間に囲まれて何時間も文句をつけられたら、不景気な顔にもなるさ。」
 言い訳じみた私のセリフに、マダムは鼻を鳴らした。
「いつものことだろう。エリザベスちゃんは元気かい?」
「・・・たぶん。」
「たぶん?」
「先月から西に出向してる。」
 私はため息をついた。
「半年は帰ってこないんだ。」
「半年で帰ってくるかね。」
 どこかからかうような口ぶりで、マダムはそう言った。
「・・・息子の不安煽って楽しい?」
「心配してるんだよ。なんだってこんな見かけばっかりのへたれ息子に育っちまったんだか。」
「放っといてよ。」
 私はマダムの目を避けるように顔を背けて、テーブルのナッツを口に放り込んだ。
「・・・マダム。」
「なんだい?」
「木蓮、ってどんな花か知ってる?」
 唐突な質問に、マダムは面食らったような顔をした。
「そのへんに咲いてないかい?今くらいが見頃だと思うけど。」
「どの花かわからないんだ。」
「あんなわかりやすい花が?」
「少尉にもそう言われた。」
 出されたグラスに口もつけず、私はカラカラと氷を鳴らして遊んだ。
「一緒に見よう、て約束したんだ。」
 呟くようにそう言うと、マダムは意地悪そうに唇の端をあげた。
「つきあってもいない男との口約束なんて忘れてんじゃないかい?」
「ちょっ!マダム、ひどい!」
「ひどいのはあんたの方だろ。中途半端ままほったらかして、一方的に保護者ぶって。まああの子の器量なら、男なんてすぐできるだろうね。あんた、このまま離れてた方がいいんじゃないかい?」
 マダムの正論に、私は口をあけたまま反論できなくなった。
 自覚はあった。
 告白もせず束縛して、曖昧な関係が心地よくてそこに甘んじて。
 それが長く続かないことくらいわかっている。
 これまで何度も、少尉が出向に行く前にも、思いを告げようと決意はしたのだ。
 それが本人を前にすると言葉が出なくなる。
 なにしろ向こうは、とても私を異性として認識しているようには見えない。
「マダム。」
「なんだい?」
「絶対失敗しない愛の告白、ってどうすればいい?」
「絶対失敗したくない、って思ってるうちは無理だろうね。」





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