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「Et cetera」
-2018年1月~6月

木蓮|大尉と准将

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 木蓮が咲いていた。
 あなたに会いたくなった。

「春ですね。」
 蕾をつけた木蓮を眺めながら、リザは隣を歩く彼に話しかけた。
「なんだ、急に。」
 彼は面食らったようにそう言った。
「木蓮の蕾がふくらんでたので。そういえば最近暖かくなってきましたしね。」
「木蓮?どれが木蓮?」
 彼の問いに、リザはふきだした。
「毎年同じようなやり取りしてますね。ほら、この木ですよ。大きな蕾がついてるじゃないですか。」
「ああ、これか。なんかいつもタイミングが悪くて花を逃すんだよな。結局ちゃんと見たことない気がする。」
「そうでしたっけ。今年は一緒に見れるといいですね。」
「君が教えてくれないと、どれが木蓮かわからないよ。」
「あんなにわかりやすい花なのに。」
 揶揄は聞こえないふりをして、彼はリザの腕を引いた。
 木蓮の下で壁に背を押しつけられ、抵抗する間もなく彼の唇が触れる。
「・・・今度は花の下でキスしたいな。」
 すぐに離れた彼は、そう言って少し笑った。
「バカですか。」
 既に日は落ちていたが、夕日の残滓が残った周囲はまだ明るい。
 恥ずかしさを隠すように、リザは彼の体を押しのけた。

 けれども今年もまた、彼と木蓮を見ることは叶わなかった。

 急な出向で、半年間留守にしていた彼が帰ってきたその夜。
 シャワーを浴びてリビングに戻ってきた彼は、いつもと違う部屋の様子に戸惑ったように立ち尽くした。
「准将。」
 キャンドルライトに浮かび上がったリザが、彼を手招きする。
「ずいぶんロマンチックじゃないか。」
 暗がりの中、足下に気をつけながら彼はリザの隣に座った。
「はい、たまには。」
 リザはにこりともせず頷き、彼のグラスにワインを注いだ。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
 グラスを軽く合わせると、静寂の中で思いのほか大きくチンと響いた。
「このキャンドル、どうしたんだ?」
「買いました。何の香りかわかりますか?」
 彼はグラスをテーブルに置き、3つあったキャンドルの1つを手にとった。
 それを鼻に近づけ、眉を寄せて首を傾げる。
「甘い匂いだけど。バニラじゃないし柑橘でもないしローズとも違うな。」
「木蓮ですよ。」
「木蓮?」
「一緒に花を見れなかったので。せめて香りだけでもと思いまして。」
 まるで業務連絡のように無機質な口調でそう言いながら、リザは彼に顔を寄せた。

 一瞬だけ唇が触れ、すぐに離れる。

 その間、彼は微動だにしなかった。
「次は木蓮の花の下で。」
 耳元でそう囁くと、彼は顔を隠すようにリザの肩に額をつけた。
「・・・リザさん。」
「なんですか?」
「木蓮の季節まで待てそうにないです。今すぐキスして押し倒したい。」
「・・・ここじゃ嫌です。」






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