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「Et cetera」
-2018年1月~6月

名前のない時の中で|夫婦

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「寝たか?」
 双子を寝かしつけていたリザがそっとリビングに戻ってきたので、ロイは声をかけた。
「寝ました。」
 リザは口元に微笑を浮かべて頷いた。
「よし。君は座ってろ。私がする。」
 ロイも笑みを浮かべて、キッチンに立った。

「今日は何ですか?」
「ミモザだ。」
「ミモザ?お花ですよね。黄色くてきれいな。」
「君の髪の色とよく似ている。」
 ロイはティポットとカップをテーブルに置くと、彼女の髪に鼻をつけた。
「華やかで、優雅で、そこにいるだけで周囲を明るくするほど美しい。」
「妻を口説いても何も出ませんよ。」
 耳元で囁かれてくすぐったかったのか、リザは身を捩って距離を取ろうとした。
「口説いてない。私は本当のことしか言ってないぞ。」
「言い慣れてますよね。どこで練習したんですか?年期が違いますね。」
「失敬だな。私が本気で口説くのは君だけだ。」
「やっぱり口説いてるんですね。」
 わざと茶化したように言うリザの口を、ロイは強引に自分の唇で塞いだ。
 特に拒む様子もなかったので、調子に乗ってそのまま舌を絡める。
 ついでに最近薄手になってきた服の上から、胸の膨らみに手を伸ばす。
 柔らかい感触にどうにも気分が盛り上がってきて、彼女の胸を揉みしだいているとさすがにペチンと手を叩かれた。
「紅茶が出過ぎちゃいますよ。」
 濡れた唇を指で拭う姿が艶っぽい。
「せっかくいい雰囲気なのに。」
 ロイが不満を漏らすと、今度はおでこを叩かれた。
「あとにしてください。」
 そう言ってリザは立ち上がると、冷蔵庫の前に歩いていった。
 冷凍室のドアを開けてごそごそと何かを探している。
「今日のお茶請けはこれにしましょうか。」
 アイスだった。一口サイズのバニラアイスにチョコがコーティングされている。
 一箱6個入り。
「ハートが入ってると幸せになるらしいぞ。」
「私は星が入っていると願いが叶うと聞きましたよ。」
「なんだ。お願い事くらい私がきくぞ。」
「上司がサボらず真面目に仕事をしますように。」
「・・・グラマン閣下に今さらそれは無理じゃないか?」
「じゃあ上司代理が頑張ってくださればそれでいいです。」
 リザのお願い事は聞こえなかったことにした。

 茶葉が開きすぎて渋くなる前に、カップにお茶を注いだ。
 ミモザの甘い香りと、一緒に入っているらしい柑橘系の爽やかな香りが立ち上る。

「いい匂い。」
「先にアイスを食べないか?溶ける前に。」
 そう言ってロイはアイスの封を開けた。
「ハートか星、入ってます?」
「入ってないな。」
「じゃあお願い事はあなたが叶えてくださいね。」
「鋭意努力する。」
 ロイはアイスを1つつまむと、リザの口に近づけた。
「ほら、リザ。あーん。」
「・・・恥ずかしいんですけど。」
 リザは顔をしかめながら、それでもパクッとアイスを食べた。
「おいしい?」
「おいしいです。」
「君もやって。」
「・・・いい年して恥ずかしくないですか?」
「いいだろ!夫婦なんだから!」
 堂々とそう言い切るロイに根負けして、リザは同じようにアイスをつまんでロイの口に近づけた。

 がちゃりと音がして、子ども部屋のドアが開いた。
「喉渇いたー。」

 リザは驚いて手を引っ込めようとした。
 それより早くその手首をつかんで、ロイはパクッとアイスを食べた。

「あー!おとさんとおかさん、紅茶飲んでる!」
「おやつ食べてる!ずるい!」
 めざとく気づいた双子は、いそいそとリザとロイのひざに座り込んだ。
「紅茶飲んでいい?」
「いいけど寝る前にもう一回トイレ行ってね。」
 リザが苦笑しながらそう言うと、双子は「はーい」と元気なお返事をした。
 夫婦でいちゃいちゃしてる間に、紅茶は少し冷めてしまったらしい。
 双子はそれぞれカップを持って、ぐーっと一気に飲んでしまった。
「君たち。これは少しいいお茶なんだからもう少し味わって飲みなさい。」
「おいしかった。」
 眉間にしわを寄せて抗議したロイを気にも留めず、双子はにっこり笑った。
「アイスも食べていい?」
「もう一回ちゃんと歯磨きするならね。」
「ちゃんと歯磨きします!」
「1個ずつだぞ。」
「4個あるよ。」
「おとーさんとおかーさんのです。」
「さっき食べてたでしょ。」
「ルミとルナには冷蔵庫にガリガリ君があるわ。」
 リザがそう言うと、双子はそろってリザを見た。
「何味?」
「ソーダ味。」
「じゃあそっちにする。」
「あしたのおやつに食べていいから。今日は1つだけにしてもう寝なさい。」
「わかったー!」
 双子は小さな手でアイスをつまむと、パクッと一口で食べてしまった。
 ハムスターのようにほっぺを膨らませて食べる様子がとても愛らしい。
「ごちそうさまでした!」
「じゃあ歯磨きしてトイレ行って、もう寝なさい。」
「おかさん、ついてきて!」
「はいはい。」
 手を繋いで寝支度をやり直しに向かう家族の背中を眺めながら、ロイは苦笑した。
 それからもう一度お茶を淹れ直すべく、キッチンでお湯を沸かし始めた。






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