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「Et cetera」
-2018年1月~6月

Raining

 ←名前のない時の中で|夫婦 →私はあなたに
 とても晴れた日だった。
 眩しすぎて、泣くことさえできないくらいに。

 雨の音に気づいて、リザは読んでいた小説から顔をあげた。
 体を支えるようにしてゆっくり立ち上がり、窓を開けた。
 風はぬるい。濡れた草木が、ふわりと香った。
 最近匂いに敏感だ。
 手にしていた小説に目を落とす。
 昨日図書館で借りてきた本だった。
 歩いて20分の距離にある図書館は、散歩がてらちょうどよかった。
 この本はカウンター前の「おすすめコーナー」にあった。
 目に付いたから、手にとってみた。
 ぱらぱらとめくってみると「少佐」という文字が目に入った。
 戦争物だろうか。表紙に描かれた少女の目に惹かれるように、それを借りた。

 イシュバールの後、彼はリザの背中を焼いた。
 この季節には珍しく、長雨が続いていた。
「イシュバールでは雨が降らなかったな。」
 リザの背中の包帯を替えながら、彼はぽつんと言った。
「渇いた土地でしたからね。」
 未だ慣れない彼の指に身震いしながら、リザは答えた。
「雨だったらもっと役立たずだったのにな、私も。」
 自嘲じみた言い方に、リザは顔をあげた。
「どういう意味ですか?」
「発火布が湿気ると使えないんだ。」
「そうなんですか?」
「ああ。」
 それ以上彼は何も言わなかった。

「そろそろ帰ります。」
 手当が終わると、リザは体を起こした。
「どうして?」
 彼は静かにリザを見つめた。
「けじめです。」
「けじめ。」
 リザの言葉を、彼は繰り返した。
「よくないです。こういうの。」
 リザは続けた。
 彼はリザの横に座り、自分の手を見つめた。
「・・・言いたいことはわかるよ。」
 随分経ってから、彼はそう言った。
「でもまだ早いと思う。」
「どうしてですか?」
「まだ傷が治っていない。」
 自分の方が痛そうな顔をしながら、彼はそう言った。
「・・・わかりました。」
 それ以上は言葉が継げず、リザは頷いた。
 その言葉に甘えてしまう自分が情けなかった。
 せめてこの雨がやむまで。
 言い訳と知りながら、リザは彼の側にとどまった。
 雨は2週間降り続いた。

 彼が留守の間に、何も言わず部屋を出た。
 会うと決心が鈍りそうだった。
 引き留められれば、振り払う自信もなかった。
 これは愛とか情とかではないと思う。
 ただの依存だ。
 久しぶりに外に出ると、眩しいほどに晴れていた。
 結局泣くことはできなかった。
 彼もリザも。

 かちゃり、と鍵の開く気配がした。
 どたどたと騒がしい音がして、愛しい男がリビングに飛び込んでくる。
「ただいま!リザ!大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。帰ってくるなり賑やかな人ですね。」
「なんで窓開けてるんだ?冷えるぞ。」
「雨の日はあなたが無能になるので心配してたんですよ。」
「私は君の体が心配だ。」
 彼はリザの額と両方の頬と鼻先と唇に軽く口づけた。
 それから床にひざをつくと、すっかり大きくなったリザのお腹に口づけた。
「ただいま。おとーさん、帰ってきたぞ。今日も元気でいい子だったか?早く会いたいな。」
「もうすぐですよ。名前、考えてくださいました?」
「もちろんだ。今5つくらい候補がある。あと3つは考えるからな。」
「私も考えちゃだめですか?」
「だめ。君は候補の中から選ぶ係。私が候補の名前を考える係。そう決めたろ?」
「私も考えたいです。お花の名前とかどうですか?」
「君にしてはまともな意見だが、だって君、ブレダにブレ子ってつけたしな。」
「あれはコードネームでしょ!」

 紆余曲折を経て、長い時間、公私共に過ごして戦場を駆け抜けて。
 依存ではなく愛している。
 もう泣くことを我慢したりしない。辛い時も苦しい時も、お互い曝しあって支えられる。
 だから2人で歩むと決めた。そしてもうすぐ2人ではなくなる。

 夫婦から家族になるまであと少し。






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