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「Et cetera」
-2018年1月~6月

私はあなたに

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「あんた、中佐好きなんじゃない?」
 軍人になって半年くらいの頃、レベッカにそう訊かれてリザはびっくりした。
「え?なんで?」
「あれ?違った?」
 リザが驚いたことに、レベッカは驚いたようだった。
「おかしいな。私のこういう勘、結構当たるんだけど。」
「レベッカの言う『好き』って、恋愛的意味で、ってことよね?だったら違うと思う。」
「でも中佐、かっこいいじゃん。」
「・・・どこが?」
「顔。」
「書類によだれ垂らして寝てる顔、すごい間抜けでびっくりするわよ。」
「女性にも礼儀正しいし、部下にも評判いいわよ。グラマン中将も気に入ってるみたいだし。」
「女好きで精神年齢が幼稚なだけじゃない?わがままでいい加減で適当で自己中で、期限守らないし片付けできないし雨の日は無能だし。」
「あ、そこ。それ。そういうとこよ。」
 レベッカは訳知り顔で頷いた。
「何が?」
 リザは怪訝な顔でレベッカを促した。
「あんた、中佐にだけ辛辣なのよね。でもなんか言い方に愛を感じるの。しょうがないわねー、みたいな。」
 思いもしなかったレベッカの評価にリザは絶句した。

 マスタング中佐は、リザの知っていた「マスタングさん」とは別人のようだった。
 昔から誰に対しても優しくて礼儀正しい人ではあったが、中佐は薄いガラスを隔てたようなよそよそしさを常に纏っていた。
 リザに対してもわがままや軽口を叩くことはあったが、ある程度以上には踏み込ませないように牽制している節があった。
 誰にも心を許さない。誰1人自分に巻き込まれないように。
 リザに向かって「ついてくるか?」と問いかけたくせに、リザがついてきているかどうかを気にする素振りはない。
 むしろ「ついてくるな」と拒まれているようにすら思う。
 彼は孤独でありたいのかもしれない。
 もう誰も自分のことで傷つかないように。

 残業で遅くなってしまい、繁華街のバルでリザは夕飯をすませた。
 目の奥が痛い。頭の芯が心臓の音に合わせて疼く。
 たぶん疲れている。
 早く帰って、シャワーを浴びて布団に潜ろう。
 そう思って帰路を急いでいると、大通りの向こうに中佐がいた。
 中佐は1人ではなかった。
 距離も周囲の暗がりも、リザの鷹の目には支障なかった。
 シフォンのスカートがよく似合う小柄な美人の腰に手を回し、中佐は派手なネオンの看板を掲げた建物の中へと消えた。
 シャワーを浴びて布団へと潜ったが、リザは寝付けなかった。
 何度も寝返りを打って固く目を閉じたが、頭痛が耳の奥に響いてうるさい。
 中佐と寄り添っていた美人の顔がちらつく。
 不思議なことに、中佐がどんな顔をしていたかは思い出せなかった。
 私は何を気にしているのだろう。

「あんた、中佐好きなんじゃない?」

 ああ、私は。
 もしかして傷ついているのだろうか。

 あたりが白み始めた頃、リザは眠ることを諦めた。

 空にはまだ明けの明星が白く残っていた。
 先に仕事の準備を整えてしまおうと、ノックもせずにリザは中佐の執務室に入った。
 ソファで中佐が眠っていた。
「中佐?」
 仰天して声に出すと、彼は低く呻いて起き上がった。
「少尉?もうそんな時間か?」
「なんで?夕べは女性と一緒だったのでは?」
 思わず口を滑らせた。
 はっとして口を押さえたが、中佐の耳にはちゃんと聞こえたらしい。
「気分転換にもならなかった。」
 どうでもいい、とでも言いたげな投げやりな口調に、リザは息を飲んだ。
「名前も聞かなかったな。まあ、もう会うこともないだろう。」
「何かご不快なことでも?」
「いや。誰でもよかった。」
 心底興味なさそうな態度に、リザは絶句した。
 こんな彼は知らない。これほど空虚で無気力な瞳も。
 疲労が抜け切れない様子で重そうな体を動かして、彼は立ち上がった。
「シャワー浴びてくる。」
「承知しました。何かいるものはありますか?朝食は?」
「いや。コーヒーだけでいい。」
 彼は天井を仰ぎ、1度だけパンと顔を叩いて部屋を出て行った。
 その背中は、もういつものマスタング中佐だった。

 あなたに伝えたい感情がある。
 言葉にするには複雑で伝えがたいこの気持ちは、抑えるには大きすぎて、いつか抱えきれなくなりそうでそれが怖い。
 私はあなたに、伝えられない言葉がある。





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