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「Et cetera」
-2018年6月~12月

少尉のお使い|1

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 マスタング中佐にお使いを頼まれた。
「本当は一緒に行くべきなんだろうが・・・」
 なんだか気が進まない様子で、何度もため息をついている。
 いくら私が都会慣れしていない田舎育ちだからとはいえ、お使い一つできないと思われているのは気にくわない。
「中佐は会議でしょう。」
 素っ気なく告げると、彼は呻いた。
「あんな意味も中身もない話し合い、時間の無駄だ。」
「司令部では口を慎んでください。」
「わかっている。とにかく私は19時までには抜けられそうにないし、明日は昼前の汽車でイーストシティに戻らねばならん。遅くなると先方にも迷惑だ。仕方ない。」
 彼は苦渋の表情で、私にメモを渡した。

 中佐に指定されたお店は、繁華街にあるバーだった。
 以前、酔いつぶれた中佐を迎えに来たことがあったので迷うことはなかったが、ドアを開ける前は少し緊張した。
 カランとドアベルが鳴る。
「すみませーん。まだ開店前なんです。」
 きれいなドレスを着て、濃いめにメイクをした女性が私の方を見て申し訳なさそうに声をかけた。
「いえ、あの。マスタング中佐から頼まれものです。」
 少し噛んでしまったが、事務的口調を心がけて冷静にそう伝える。
「ロイさんの?ちょっと待ってね。マダムー!ロイさんのお使いよ!」
「聞いてるよ。こっちに呼んどくれ。」
 最初に声をかけてくれた女性に促されてカウンターに近づくと、マダム、と呼ばれた女性がじろりとこちらを見た。
「いらっしゃい。何か飲むかい?」
「いえ。私は頼まれごとで伺っただけですから。」
 私は中佐から預かっていたウィスキーの入った箱をマダムに渡した。
 彼女はそれを受け取って箱からボトルをとりだし、吟味するようにじっとラベルを見つめた。
 これで私の任務は終了だ。
 ほっとして立ち去ろうとすると、私を抑えるようにマダムの強い視線がこちらを向いた。
「バーに来て何も飲まないつもりかい?」
 からかうようにそう言われて、私はぐっと詰まった。
「あの・・・私、あまりお酒詳しくなくて。あまり強くなくて甘くないの、ってお願いできますか。」
「いいよ。任せときな。」
 立ち去る機会を逸してしまい、私はカウンターのスツールに座り直した。
「あれ?マダムお酒作ってるんですか?この子は?」
 開店準備でお店のフロアを掃除していた子が、通りすがりに声をかけてきた。
「うるさいね。娘だよ。」
 煩わしそうに手を振るマダムに、女の子は「似てなーい」と笑いながら離れていった。
「あの・・・」
 娘、と表現されたことに戸惑ってマダムを見ると、マダムは苦笑して透き通ったコバルトブルーのロングカクテルを私の前に置いた。
「気を悪くしたかい?ごめんね。」
「いえ、別に。」
「ロイ坊がお世話になったね。1度ちゃんと言っておこうと思っていたんだよ。」
 なった、と過去形で言われたことに私は気づいた。
「あんたは覚えてないかもしれないけどね。昔ロイ坊とあんたの家に行ったことがあるよ。紹介状を持ってご挨拶をしにね。」
 思っていた以上に古い話を持ち出されて、私は目を瞠った。
「もしかして中佐の・・・」
 マダムが唇に指を当ててかすかに首を振ったので、私は口を噤んだ。
「まさか軍人に、しかもあの子の部下になるなんてね。」
 やるせない、といった口ぶりで、マダムはグラスを磨く作業を始めた。
「たんなる偶然とは思えないよ。あの子にたぶらかされたんじゃないだろうね。あの子、自分じゃ意識して女の子口説いてるつもりなんだろうけど、天然の人タラシなところがあるからね。もしあんたが無理してあの子の側にいるのなら・・・」
「違います。無理なんてしていません。」
 失礼だとわかっていながら、私はマダムを遮るようにそう言ってしまった。
 私の強い口調に、マダムは手を止めた。
 しかしそれはほんの一瞬のことで、マダムは私に目を向けることもなく再びグラスを磨き始めた。
「私が側にいたいんです。」
 言い訳をするように、私は言った。
「辛くないかい?」
 私は黙って首を振った。
「マダムは・・・中佐と私のこと、どれくらいご存知ですか?」
 恐る恐るそう訊くと、マダムは軽く息をついた。
「何も知らないよ。あの子は自分のプライベートなんて何も話しゃしないんだから。」
「じゃあどうして私のこと?」
「ご挨拶した先生の名前くらい覚えてるよ。そのご家族だってね。」
 初めてこの店に来たとき、きちんと名前を告げて挨拶をしたことを思いだした。
「あの子があんたのことを話すときはね、いつも本当にいい顔をしてる。たいした話じゃないよ。だらしなくしてたら怒られたとか、仕事サボると拳銃片手に追いかけ回されるとか、いつも気むずかしい顔してるけど、おいしいおやつをあげたら本当に嬉しそうな顔するから、セントラルのおすすめスイーツを教えて欲しいとか。」
 そんな恥ずかしい話までしないで欲しい。
 たぶん赤くなっているだろう顔を隠すため、私は目を伏せた。
「あんたがあの子の側にいてくれて嬉しいよ。でもね・・・」
 マダムはそこで言葉を切ると、私をじっと見つめた。
「あの子にとって私がいるように、あんたにだって親がいる。身勝手だろうがわがままだろうが、親が願うのは子どもの幸せだけ。あんたは自分の幸せを大事にしなきゃいけないよ。あんたにとってあの子が枷になるなら離れなさい。まあ、私にしてみればね、抜け作のあの子にはあんたみたいにしっかりした子がついててくれると安心なんだけど。」
 だからといってあんたの幸せつぶしちゃったら、ホークアイ先生にも申し訳ないしねえ。
 独り言のようにマダムは呟いた。





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