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「Et cetera」
-2018年6月~12月

彼女の長い1日|1

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「熱がありますね。」
 ソファにもたれてぼんやりしている彼の首に両手を当てて、私は眉をひそめた。
「熱?」
「様子がおかしいと思ってたんですよ。」
 しまっておいた体温計を持ち出してきて、私は彼に差し出した。
「ちょっと測って下さい。」
「測ったら重症になりそうだから嫌だ。」
「訳わからない屁理屈こねないで下さい。」
 低い声で威嚇するように迫ると、彼は頬を引きつらせながら渋々体温計を受け取った。
「・・・何度ですか?」
「・・・度2分。」
「前半が聞こえませんでした。」
 彼からひったくるように体温計を奪い取り、彼が隠そうとしたその数字を見てぎょっとする。
「39度2分?」
「部屋が暑いんだ。」
「今日は涼しいですよ。」
 下着姿で座り込んでいる彼にパジャマを押しつけ、私はアイス枕を準備し、タオルを濡らして固く絞った。
「何ぼんやりしてるんですか。早く着替えて下さい。」
「めんどくさい。」
 ・・・いい年してめんどくさい男だ。
 私は彼のシャツをはぎとると、汗に濡れた彼の首と背中を拭った。
「気持ちいい。今日は積極的だな、中尉。」
「軽口たたける余裕があるなら大丈夫ですね。」
 気持ち悪い、くらくらする、だるい、暑い、とうるさい彼をベッドに引っ張り込んで、薄い夏布団をかけてやった。
 後は保冷剤をタオルでくるんで両脇に挟み、濡れタオルを額にのせる。
 後は水分補給用の麦茶をサイドテーブルに置いて、私は彼の横にかがみ込んだ。
「明日はお休みで構いませんから。私は自宅に帰りますけど、おとなしく寝るんですよ。」
「中尉、帰るのか?」
 充血した目で、彼は不安そうに私を見上げた。
「明日は仕事ですし。あなたが休むなら早めに出て仕事の段取りをつけておかないと。」
「帰るのか?」
 子どもじゃあるまいし、そんな目で見ないで欲しい。
「もう遅いし、帰るなら送る。」
「バカですか。いいから寝て下さい。」
「寝てる間に帰るのか?じゃあ寝ない。」
 わがままばかり言って困らせないで欲しい。
 これが30前の大人の男の言うことかと、彼とは違う理由で頭が痛くなる。
「ほら。寝かしつけてあげますから寝て下さい。」
「添い寝?」
「嫌ですよ。うつったらどうするんですか。」
「私が看病する。」
「お粥も作れない人がどうやって看病するんですか。」
 呆れてそう言ったのだが、どうやら彼には聞こえていないようだった。
 荒い息でうつらうつらしている。
 もしかしたら熱が上がっているのかもしれない。
 汗に濡れた黒い髪をなでると、彼は甘えるようにすり寄ってきた。
 母性本能がくすぐられて、胸の奥の一番深く柔らかいところがきゅっと締め付けられる。
 私はため息をつくと、家に帰ることを諦めた。





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