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「Et cetera」
-2018年6月~12月

彼女の長い1日|6

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 部屋の中は真っ暗だった。
 リザは玄関の明かりだけつけ、薄暗い廊下を抜けてリビングに入った。
 リビングにも明かりはついていなかった。
 そのままキッチンに向かい、冷蔵庫を確認する。
 昨日のうちに作っておいたカボチャのスープがきれいになくなっていて、リザはほっとした。
 シンクも見てみたがとてもきれいに片付いていた。
 使った食器を片付ける余裕はあったらしい。
 寝室に入ると、ベッドが膨らんでいる。
 サイドテーブルのスタンドライトも消えていた。
 起こさないようにそっと近づくと、昨夜よりはずっと穏やかな顔で彼は眠っていた。
 彼の首に手を当ててみる。
 温かくはあるが熱はなさそうだ。脈も速くない。
 呼吸も静かに落ち着いていて、リザは安堵した。
 ベッドの端に腰掛けて、その黒髪をなでた。
 汗で少し湿っぽいその手触りが心地よい。
 蓄積していた疲労も、すさんだ気持ちも凪いでいく。
 顔だけ見てすぐ帰るつもりが、触れているうちに離れがたくなってきた。
 彼の前髪をかきあげて、リザは彼の額に口づけた。
 ふわりと彼の匂いを感じた。
 匂いの元を辿るように彼の首筋に鼻をつけると、そこはとても心地よかった。
 ああ、まずい。離れられなくなってしまう。
 ベッドに手をついて起き上がろうとすると、ぐいっと腕を引かれた。
 不意打ちだったため振り払うこともできず、リザは彼のベッドに倒れ込んだ。
「・・・おかえり。」
 低く掠れた声で囁かれて、リザは肩をすくめた。
「ただいま帰りました。ごめんなさい。起こしました?」
「いや、まだ寝てる。」
 そう言って彼はリザを布団の中に引きずり込み、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「このままもう一回寝る。」
「あの、寝にくいんですけど。」
「聞こえない。」
「着替えたいしシャワーも浴びたいし。」
「もう寝た。何も聞こえない。」
「今日は家に帰る予定なんですが。」
「明日にしたまえ。」
 勝手なことを一方的に言い置いて、彼はさらに強くリザを抱きしめた。
 仕方がない。彼がもう一度寝付いて、この腕が緩んだら家に帰ろう。
 そう決めて力を抜くと、一気に眠気が襲ってきた。
 力強い彼の太い腕、ほどよい温もり、無意識に全身の緊張がほぐれて安らいでしまうかぎ慣れた匂い。
 抗いがたい甘い毒が、リザを包んで麻痺させる。
 少しだけ目をつぶろう。疲れているし。
 今身動きをしたら、また彼が目覚めてしまうかもしれない。
 だからもう少し。せめて彼がもっと深く眠るまで。





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