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「Et cetera」
-2018年6月~12月

ミス・イーグルの憂鬱

 ←彼女の長い1日|7 →ミス・イーグルの憂鬱(おまけ)
 繁華街の裏手にあるスラム街。看板もない寂れた雑居ビルの1フロアにあるダーツ・バーが、最近賑わっていた。
 目的は誰もが同じだった。
 3ヶ月ほど前ふらりと現れ、その美貌と類い稀な実力で瞬く間にナンバー1プレイヤーとなったその女性。
 ミス・イーグル。
「お金が必要なの」
 初めて店を訪れたとき、彼女はそう言った。
「ここならダーツで稼げる、って聞いたんだけど」
「腕があればな」
 店のマスターは鼻で笑い、じろじろとなめ回すように彼女を見た。
「参加費がいる。勝てばその3倍が払戻となる。あんた、金はあるのか?」
 マスターが最後の一言を付け加えたのも無理はなかった。
 後ろにひっつめた髪には艶も潤いもなく、着ている服は派手ではあったがどう見ても安物だった。
 化粧はしていたがやたらシャドウとルージュの色が濃く、爪のマニキュアははげかけていた。
 しかしマスターの無粋な視線に物怖じすることもなく、彼女は小さく頷いた。
 彼女は色あせた小さなハンドバッグに手を突っ込み、裸のお札を取り出してカウンターにのせた。
「これ、私の全財産。たりる?」
「全財産?いいのか?」
「いいわ。これっぽっちじゃどうせ生活なんかできやしないし、なくなったら首でもくくるしかないんだから」
 淡々とそう告げる女性から金を受け取り、マスターは会員証を差し出した。
「ここに名前書きな」
 エリス・イーグル。それが彼女の名前だった。

 7万センズから始まった彼女の財産は、瞬く間に増えていった。
 初日の夜だけで100万センズを稼いだ彼女の噂は、ある一部の界隈でどんどん広がっていった。
 1週間経つと、彼女の容姿が変わった。
 髪は艶やかになり、洋服が高級品になり、バッグと財布がブランドになった。
 透き通るような肌と、突き刺すような鋭い光を放つ瞳は多くのファンを魅了した。
 すらりとした長い足を惜しげもなく曝し、しなやかに凜と背中を伸ばすその立ち姿は、存在するだけで他を圧倒した。
 そして彼女の手から放たれるダーツは一分の迷いもなく、吸い込まれるように小さなエリアに刺さった。
 ゼロワンゲームの際には、特にルールを明確にしていないときでさえ、彼女は必ずラストをダブルで上がった。
 1ヶ月が過ぎると、もはや彼女は参加費を払う必要もなかった。
 彼女を見るためだけに大勢の観衆が集まり、動くお金も桁違いだった。
 金を求め、プライドを賭けて、あらゆる対戦相手が彼女に挑んだ。
 その頃になると、彼女はわずか1試合受けるだけで大金を稼いでいた。
 この店で初めてダーツを投げてから、彼女は負け知らずだった。

「大きなイベントがある」
 カウンターでモスコミュールを飲んでいた彼女に、マスターは話しかけた。
「この店じゃなくて、このビルの地下にあるカジノ・バーなんだが」
「私に関係ある?」
 彼女は興味なさそうに肩をすくめた。
「あんたのゲームをメインイベントにしたいらしい」
「対戦相手は?」
「超一流を手配する、って聞いたよ」
 そう言ってマスターはニヤリと笑った。
「悪い話じゃない。あんたが勝てば賭け金の2割があんたに支払われる。普通なら一生かけてもお目にかかれない金額だ。」
「ふーん。じゃあそれで引退するわ。」
 物憂げにそう言って、彼女は1万センズをカウンターに置いた。
「もう十分稼いだし。田舎にひっこんでのんびりする」
「今さらそんなことが許されると思ってんのか?」
 マスターは低い声で脅すように凄み、彼女を睨んだ。
「堅気じゃねーことくらいわかってんだろ」
「私は何も知らないし、誰にも支配されない」
 美しい唇が弧を描いた。
「日時が決まったら教えて。それ以外のゲームはもう受けない」
「そういうわけにはいかねーよ。あんたを見たいお得意さんは多いんだ」
「イベント前に傷が付いても困るでしょ。適当にごまかしといて」

 錚々たる顔ぶれが集まっていた。
 彼女に賭けていたのは、アエルゴと繋がり、イシュバール内戦で財を成したと噂の武器密売組織だった。
 一方、彼女の対戦相手を準備したのは裏稼業では知らないものなどいない違法薬物組織だった。
 各組織のトップがVIP席で見守る中、ゲームが始まった。
 彼女はゲームの対戦相手を見て、眉をひそめた。
 黒い髪、黒い瞳、黒いスーツを着たその男は、彼女に愛想よく握手を求めた。
 1ゲーム目は大方の予想通り彼女が制した。
 しかし2ゲーム目を対戦者が勝利し、会場がどよめいた。
 彼女は初めての敗北に動揺する様子もなく、ゲームは3ゲーム目に入った。
 しかし3ゲームの中盤頃、がやがやと外野が騒がしくなってきた。
「何の騒ぎだ」
 観衆が訝しげに腰を上げようとしたとき、ドアが開いて軍服の集団が一斉に入ってきた。
「誰も動くんじゃねー!両手は頭の後ろだ。違法賭博、及び違法薬物使用の現行犯。抵抗した場合は公務執行妨害として射殺する」

 大捕物の喧噪の中、プレイヤーの2人は黙々とゲームを続けていた。
「あー、お2人さん。もういいんじゃねーっすか?」
 ハボックがそう声をかけても、リザは的から一瞬も目を離さなかった。
「今、いいところ。邪魔しないで。」
「大佐-。これから取調べっすよ」
「うるさい。私が勝ったら中尉にほっぺにチュウしてもらう約束だ」
「私が勝ったら1週間の休暇ですからね」
「・・・中尉。今でっかい捕り物したの見てたでしょ。無理じゃないっすか?」
「私の分まで大佐が頑張るから大丈夫」
「心配するな、ハボック。中尉は休まない。ほっぺにチュウだ」
「まあどうでもいいですけどね。適当に切り上げて戻ってきて下さいよ」
 どう見ても個人的な勝負に夢中な上司に呆れて、ハボックは肩をすくめた。



リザの日企画「密着 潜入捜査24時」
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