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「Et cetera」
-2018年6月~12月

帰れ

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「おーっす、ロイ!親友の俺がわざわざきてやったぞ。俺の幸せのお裾分けをしてやろう」
 ノックもせず、入ってくるなりテンションの高いヒューズは断りもせずに応接のソファにどっかり座った。
「うるさい黙れやかましい。何しにきた?」
 いつになく黙々とデスクワークに励んでいたロイは、チラリと顔をあげることもなくそう言った。
「法務部の監査。今日は中将に挨拶にきたんだけど、あのじいさん、またサボってやがってよ。補佐官が探しに行ったわ。」
「だったら向こうの応接で待てばいいだろう。」
「暇なんだよ。俺の暇つぶしに付き合え。」
「断る。ついでに言っておくがうちに泊まるのも、就業後の酒に付き合うのも断るぞ。私は今日は定時にあがるんだ。」
「なんだよ、デートか?おまえ、俺と女とどっちが大事なんだよ。」
「女。」
 間髪いれずそうロイが答えると、ヒューズは舌打ちした。
「おつきあいかお仕事か知らねーけどよ、わざわざセントラルから来た俺を放っていくほど大事な用か?」
「監査なら1週間はいるんだろ。優先順位は高くない。」
「冷てーな。」
 わざとらしく大げさにヒューズは嘆いたみせたが、ロイは気にも留めなかった。
 失礼します、とノックをしてブレダが入ってきた。
「コーヒー持ってきました。」
「あれ?」
 ヒューズは訝しげに眉を寄せた。
「リザちゃんは?今日休み?」
「中尉なら非番ですよ。」
「ふーん。明日は?くるの?」
「遅番ですよ。」
「遅番。」
 ヒューズが何か言いたげにロイを見たが、ロイはそれに気づかないふりをした。
「なあ、ブレダ少尉よ-。ロイがなんか真面目なんだけどなんか悪いもんでも食ったのか?」
「中尉が休みんときはなぜか真面目ですよ、いつも。」
「真面目なのか?リザちゃんが休みだと?」
「3時間おきに、疲れたー、つって女に電話してますけどね。さっきもしてましたよ。今日はデートじゃないっすか?」
「女ね。リザちゃんじゃねーの?」
「いや、毎回違う人ですよ。俺もいちいち名前全部は確認してませんけど。」
「おいブレダ。仕事中だろう。さっさと戻れ。」
 ロイが唸るようにそう言うと、ブレダは肩をすくめて出て行った。
「リザちゃん、今日休み?」
 わざとらしくそうヒューズが訊くと、ロイは頷いた。
「明日は遅番。」
「それがどうかしたか?」
「3時間おきにリザちゃんちに電話してんのか?」
「していない。」
「ふーん。」
 剣呑な視線をものともせず、ヒューズはロイを押しのけて電話の履歴を見た。
「全部同じ番号じゃん。」
「いいか、ヒューズ。私は、中尉の家に、電話なんかしていない。」
「この番号見覚えあるな。あ、思い出した。あれ?今ここ誰かいるの?」
「それ以上無駄口叩くと燃やすぞ、ヒューズ。」
 ロイの目が本気でヒューズを睨んだので、ヒューズはパッとデスクを離れた。
「うわっ、マジの目だ。怖え-」
「いいか、ヒューズ。明日なら付き合ってやる。何なら一晩中私の女性観について語り明かしてやる。今日はダメだ。さっさとホテルの手配でもして中将のところに行け。」
「わー、ロイ君本気だ。やべー、怖えー。心配しなくてもホテルの手配くらいしてあるし、てめーの女性観聞くくらいなら俺の麗しき2人の女性について夜明けまで語り明かしてやるよ。グレイシアとエリシアだけど。まあいっか。なんか今日デートのために人生賭けて仕事してるみたいだし。俺はおとなしく中将に挨拶してさっさと帰ろーっと。じゃあな、ロイ。」
 からから笑いながらロイの肩を叩くヒューズに、ロイは手元のファイルをぶつけてやろうかと一瞬本気で考えた。
 事件になっても困るので自重したが。

 早々にヒューズを追い出した甲斐あって、仕事は定時過ぎには片付いた。
 家路を急ぎながら、自然と顔が綻ぶ。
 滅多にない2日連続共に過ごす夜だ。ヒューズなんぞに邪魔されてたまるか。
 自分の家まであと少し。
 自宅に一番近い交差点の角を曲がると、目の前を見覚えある男女と犬が歩いていた。
 ロイはぽかんと口を開けた。
 女は片手に犬のリードを持っていて、 隣を歩く男は片手に買い物袋を持っていた。
 そして男は、傍らの女と仲むつまじく楽しそうに話している。

 俺の!中尉に!なんでおまえが!

 跳び蹴りでもしてやろうかと思ったが、それより先に子犬に気づかれてしまった。
 しっぽを振りながらこちらに駆けてこようとする子犬にリードを引っ張られ、2人がロイの方を向いた。
「あら、大佐。おかえりなさい。」
「よう、ロイ。もう仕事終わったのか?早えーな。」
「・・・ヒューズ。」
 全身に焔を纏うようなロイの様子に、ヒューズは引きつった笑いを浮かべた。
「待て、ロイ。ちょっと落ち着け。俺は別に疚しいことは何もない。」
「当たり前だ!なんでおまえが中尉と歩いてるんだ!」
「駅前でコーヒー飲んでたらたまたま会ったんだ!」
「大佐、うるさいですよ。なんでそんな大きな声出すんですか。」
「君こそ!君こそなんでヒューズと仲良く歩いてるんだ!」
「普通に歩いてただけですけど。」
「私と歩くのは嫌がるじゃないか!」
「人聞き悪いこと言わないで下さい。あらぬ噂は困ります、ってだけでしょう。」
「じゃあなんでヒューズと歩いてるんだ!」
「ヒューズ中佐と噂になるわけないでしょう。」
「なあロイ。リザちゃんと並んで歩いてもらえねーの?俺なんかいっつもグレイシアと腕組んで、エリシア抱っこして・・・」
「うるさいうるさいうるさい!おまえもう帰れ!」

 完全に拗ねてしまったロイの機嫌は、家に帰っても損ねたまま元に戻らなかった。
 結局リザは夕飯よりも先に、ロイとともにシャワーを浴びることになってしまった。
 




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