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「Et cetera」
-2018年6月~12月

ずっと

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 手を繋ぐのは日が暮れてからと決めていた。
 非番の日に2人ででかけることはほとんどなかった。
 今となってはずいぶん昔のことに思う。

「夕方になるのが早くなったな。」
 本を読んでいたはずの彼がそう言ったので、リザは洗濯物をたたんでいた手を止めた。
 彼は窓の外を見ていた。まだ日は暮れていない。
 けれども日差しの角度、光の色、外の明るさは確かに夕方のそれだった。
 リザ は時計を見た。午後3時50分。
「暗くなる前にハヤテ号のお散歩とお買い物に行きましょうか。」
「暗くなる前に、っていうのがいいな。」
 彼はそう言って、リザの背中にくっついて肩にあごを乗せた。
「ちょっと前まで明るい間は一緒に歩いてくれなかったもんな。」
「あら。ついてくるんですか?」
「え?1人で行くつもりか?」
 焦ったような声を出す彼がおかしくて、リザ はクスクス笑った。
「君ね、そういう意地悪はよくないと思うんだ。」
 むくれた彼の方に体を捻って、リザは彼の頬に口づけた。
「ごめんなさい。お買い物手伝ってもらえますか?」
「もちろんだ。」
「洗濯物たたみ終わるまで待っててくださいね。」
「手伝うよ。タオルなら私もたためる。」
 下着までクリーニングに出していた人が、ずいぶん進歩したものだ。

 いつもより遠回りをした。
 まっすぐ商店街に向かわず河原の土手沿いを歩き、すっかり紅葉した木々を一緒に眺めた。
「夕飯は何がいいですか?」
「少し寒くなってきたからあったかいものがいいな。」
「ポトフとシチューとグラタンとどれにしましょうか?」
「全部大好きだ。なんかお腹すいたな。」
「お腹がすくという感覚をご存知なんですね。知らないのかと思ってました。」
「君の作ってくれるご飯を食べるようになるまで知らなかったよ。」
 頬をなでる風が少し冷たい。
 身震いしてしまったことに気づかれたのか、彼は繋いでいた手をそのままに、自分のコートのポケットに入れた。
「歩きにくくないですか?」
「あったかいだろう。」
「そうですね。」
「知らないといえば・・・」
「なんですか?」
「君が教えてくれるまでポトフという料理を知らなかった。」
 彼の告白にリザ はふきだした。
「昔もよく作ってたじゃないですか。」
「そうだっけ。たぶん食べることにあまり興味がなかったんだな。」
「今はあるんですか?」
「君の料理は好きだし、君が料理している姿も好きだし、料理の名前をちゃんと覚えていればリクエストもできるって学習した。」
「じゃあ今日はポトフにしましょうか?」
「いいね。」
「あとはサラダとラタトゥイユで。」
「大好きだ。」
「そういえばラタトゥイユ、苦手だったんですか?」
「なんで?大好きだぞ。」
「昔トマトとズッキーニが苦手だった、ってマダムが。」
「そうだっけ。あ-、でも言われてみればトマトもズッキーニもそんな好きじゃなかったかもな。ていうか、昔は別に好きも嫌いもなかったと思うぞ。出されたものは食べる、って感じで。君のラタトゥイユは大好きだけど。」
「本当に食べることに興味がなかったんですね。」
「その間に本が何冊読めるかと思うと、無駄な時間にしか思えなくてね。」
「生物として致命的ですよ。よく生きてこれましたね。」
「幸いマダムが生活習慣には厳しかったからね。」
「だから一人暮らし始めるなり栄養失調になったりするんですよ。」
「君のおかげで食事が楽しくなった。もう君なしじゃ生きていけないよ。」
 茶化した口調だったのに、リザ はとっさに返事ができなかった。
 たんなる軽口だとわかっているのに。
 言葉が出なかった。たぶん顔も赤くなっている。
 照れてしまったことに気づかれないように顔を背けたのだが、こういうときばかり察しのいい彼はわざわざリザ の顔を覗き込もうとする。
「リザ?どうかしたのか?」
「私もです。」
 なんとかそう言ったのだが、どうやら聞き取れなかったらしく彼はさらにリザ に顔を寄せた。
「私も同じです。」
 同じ?顔に疑問符を浮かべてそう繰り返した彼は、どうやら自分の発言を思い出したらしい。
 からかわれるかと思ったが、意外にも彼はあいた右手で顔を覆ってそっぽを向いた。
「君ね、そういうの不意打ちで言われるとなんていうかその。」
「どうかしましたか?」
 意趣返しというわけではないが、今度はリザ が彼の顔を覗き込んだ。
 彼はため息をつきながら、がしがしと自分の後頭部をかいた。
「そういうことは家で言ってくれ。」
 ここじゃキスできないし、抱きしめたら怒るだろうし。
 彼の理不尽な苦情は聞こえなかったことにした。

 外の明るさに関わらず手を繋ぐ。
 非番でもそうでなくても、いつも2人で並んで歩く。
 今はそれが日常。




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いい夫婦記念文。


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