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「Et cetera」
-2019年1月~6月

君は特別|少尉と中佐

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「中佐ってなんで少尉は口説かないんですか?」
 ハボックの疑問に彼は首を傾げた。
「なんで少尉を口説くんだ?」
「え?なんでって。」
 ハボックは意外な返事に面食らった。
「・・・だって少尉、美人だし。」
「おまえ、相手が美人ならなんでもいいのか?」
「なんでもいいです。」
 真面目な顔で頷いたハボックの鼻を、彼は指で弾いた。
「なんでもいいわけあるか。」
「そうっすか?」
 口を尖らせて不満そうな顔をしたハボックを、彼は鼻で笑った。
「口説く相手は選ぶもんだ。つきあうメリットのない女なんか時間の無駄だ。」
 うわー、ひでー。
 ハボックが胡乱な目で見るのを気にも留めず、彼は女性の名前を連ねた手帳に新たに書き込みを加えていた。

 そのやり取りを思い出しながら、リザは夕飯の後片付けをしていた。
 ハボックと彼は聞こえていないと思ったようだが(あるいは聞こえても構わないと思ったのか)、2人のやり取りはばっちりリザの耳に届いていた。
 わかっていたことだし、と自分に言い聞かせてはみるが、やはり女性扱いされていないという再認識に心が落ち込む。
 食事だって口説いた女に作ってもらえばいいのに。
 八つ当たりじみたことを思っていると、彼の手が頭に触れた。
「少尉、元気ないな。」
「気のせいです。」
 リザは彼の手から遠ざかるように、2歩下がった。
「洗い物終わったので帰ります。」
「ん?まだ早いだろう。紅茶でも淹れるよ。」
 そう言って彼はケトルに水を入れて火にかけた。
「このまえヒューズにもらったフルーツケーキがまだ残ってるしな。」
 甘すぎず、ブランデーとシナモンの香りがほどよくリザの好みにマッチしたこのフルーツケーキを出されては、リザは抗えなかった。
 いそいそと冷蔵庫からケーキを取りだし、切り分けてお皿にのせる。
 リザがケーキの準備をしている間にお湯が沸いたらしく、彼は手際よく紅茶を淹れた。
 爽やかなダージリンの香りにうっとりする。
 しっとりとしたケーキの舌触りと口の中でふわりと広がる紅茶の香りを楽しんでいると、口元を緩めてリザを見つめている彼と目が合った。
「・・・なんですか、中佐。」
「ん?おいしそうに食べるな、と思って。」
 そう言って彼はリザの唇を指で拭った。
「ケーキ、ついてる。」
 カッと顔が赤くなった気がした。
「ふざけないでください。」
「別にふざけてないが。」
「子ども扱いもやめてください。」
「だって子どもみたいな顔してるしな。・・・冗談だ。銃を向けるのはやめてくれ。」
 リザが銃から手を離すと、やれやれ、と彼は肩をすくめた。
「かわいいな、って思っただけだよ。」
「それも冗談ですか?」
「いや。正真正銘、私の素直な気持ちだが。」
「そういうセリフは他の女性におっしゃったほうが喜ばれるのでは?」
「自分の素直な気持ちをわざわざバカ正直に女に言うわけないだろう。」
 どういう意味だ、それは。
 暗に「女じゃない」と言われているような気がして、リザはさらに不機嫌になった。
「・・・帰ります。」
「まだケーキ残ってるぞ。」
 いりません、と突っぱねようと思ったが、食べ物を粗末にするのはリザの良心が許さなかった。「もったいない」と「悔しい」がせめぎ合った結果、リザは半分以上残っていたフルーツケーキを全部口に入れた。
 ブランデーの香りが鼻に抜ける。
 ケーキの心地よい舌触りも口いっぱいに頬張っては、まったくわからない。
 喉に詰まりそうになって、カップに残っていた紅茶で一気に流し込んだ。
 紅茶の風味はケーキに消されてしまった。
「帰ります。」
 大好物のケーキと紅茶を自分の意地で台無しにしてしまったことに自己嫌悪しながら、リザはそう繰り返した。
「送るよ。」
「いりません。」
「機嫌悪いな。なんの意地を張ってるのか知らんが素直に送られたまえ。」
 誰のせいで。
 唇を噛んで彼を睨んだが、当の彼は気にも留めない。
 さっさとコートを着込んで、リザを促した。
「行くぞ、少尉。」
 声音はいつもの上官のそれだった。
 そういう言い方をされるとリザは逆らえない。もとよりそう躾けられている。
 外に出ると、刺すような北風にリザは身震いした。
 そのことに気づかれたのか、彼はリザの手を握って自分のポケットに入れた。
 文句を言おうと彼の顔を見上げると、彼はまっすぐ前を見たまま唇を引き結んでいた。
 上官然としたその態度にリザはやはり何も言えず、されるがまま黙って歩いた。






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