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「Et cetera」
-2019年1月~6月

花咲き散るまで|中尉と大佐(1)

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 毎年恒例、グラマン中将のがらくた市がロビーで開催されていた。
 油断するとあっという間に執務室を埋め尽くしてしまうという中将の蒐集物の一部が、年に一度東方司令部内で希望者にもらわれていくのだ。
  とはいえ蒐集物自体が高尚な(というかマニアックすぎる)芸術品であるため、その8割が一週間経っても引き取り手がなく、すべて町の古物商に引き取られていくのが通常だった。
 冷やかし半分でそれらを眺めていたロイは、何かと目が合ったような気がして首を傾げた。
 3箱ある段ボールに手を突っ込んでガサガサと探って、ロイは見覚えあるそれを引っ張り出した。
 それは狐だった。
 親指ほどにも満たないその陶器の狐は、なぜか胸元に赤い前掛けをつけていた。
 すらりとした体躯に太い尾を持ち、細く赤く描かれた目がじっとロイを見つめている。
 刺繍糸を太く編んだ赤い紐がついていて、鞄か財布にでもつけるのに手頃だった。
 魅入られたようにロイがそれを手にしたままぼんやりしていると、グラマンが肩越しにひょいと覗き込んできた。
「それ、気に入った?」
「中将!」
 ロイはその狐を左手に持ったまま、跳ねるように振り向いた。
「かわいいでしょ、それ」
「かわいいというか・・・不思議な魅力がありますね」
「お稲荷様って言うんだよ。シンよりもっと東にある島国の神様なんだって」
「はあ」
「かわいがったげてね。いいことあるかもよ」
 ほっほっほっ、と笑いながら歩いて行く中将の背中を見送りながら、ロイは手の中の狐に目を落とした。

 かわいがれ、と言われた手前、箱に戻すこともできなかった。
 根付けの部分を指で摘まんでぶらさげ、狐を指で弾く。
 たんなる陶器にすぎない狐は抵抗することもなくロイにされるがまま、つり下げられてぐるぐる回った。
 しかしその目は常にロイから離れない。もちろん錯覚なのだろうがいたたまれなくなって、ロイはため息をついた。
 首の後ろがちりちりとこそばゆく、ロイはそこを指でぽりぽりと掻いた。
 最後に髪を切りに行ってからそう経っていない気がするが、もう後ろ毛が伸びているのだろうか。
 なんとなくそわそわと気分が落ち着かない。
 狐をテーブルに放り出して手近な本を手にとったが、まったく集中できなかった。
「お待たせしました」
 キッチンで食器を片付けていたリザが、紅茶を持ってリビングに入ってくる。
「お茶請けが何もないんですけど」
「ああ。そういえばそうだったな。また買ってくるよ」
 テーブルに紅茶を置こうとしたリザは、そこに転がっていた狐に気づいて「あら」と声をあげた。
「これ、どうしたんですか?」
「中将のがらくた市で見つけた」
 リザは狐を手にとると「かわいいですね」と微笑した。
「君にあげるよ」
「いいんですか?」
「私は苦手だ」
 そう言ってロイは顔をしかめた。
「ちょっとあの子に似てませんか?うちの近所にいた・・・」
「君が世話をしていた狐だろう」
「そうです。コーン様」
「お稲荷様、というらしいぞ」
 ロイはにやりとして、リザの手の中の狐を覗き込んだ。
 どういうわけかロイの手の中にいたときより、満足げな顔をしている。
「シンより東にある島国の神様だそうだ」
「そうなんですか?ずいぶん遠くからきたんですね」
 リザは狐を大事そうに両手で包み込むと、その鼻先にキスをした。
 なんとなくそれがおもしろくなくて、ロイは飲みかけていた紅茶のカップをテーブルに置いた。
「リザ。そんな狐にかまってないで・・・」
 リザの肩に手を回して、その体をロイは自分の方に引き寄せた。
 頬をすり寄せるとリザは斜めに睨んできたが、その視線は尖ってはいない。
 リザが目を閉じたのを了承ととらえて、ロイはリザの口に唇を寄せた。
 しかし触れる直前、ばちっと電気が走ったような感覚に、ロイはバッと体を離した。
「な、なんだ?」
「どうかしましたか?」
 リザはきょとんとした顔で、不審な挙動のロイを見つめた。
「いや、なんか今バチッって」
 首を傾げながら顔をなぞったが、別に痛くもなんともない。
「静電気、か?」
釈然としないまま、リザの寄せてきた唇を受け入れた。




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