「22箇所にキスする2人」
-未来
頬(親愛/厚意/満足感)
セントラルに異動して最初の非番だった。
いつもと同じ時間に起きたリザは、何も身につけず寝入ってしまったことに気づいて肩をすくめた。
会議や残業続きで、プライベートが疎かになっていたのは確かだ。しかしいくら休みの前夜だからといって、気を失うまで何度も睦み合うというのはいかがなものだろうか。
長いつきあいの中で、夜を共にすることももはや生活の一部に等しいというのに、何年経とうと彼の愛情表現は未だ衰え知らずだった。
階級があがって、部下が増えた。責任も重くなった。職場で軽口を叩くような機会はめっきりと減り、険しい顔で考え込むことが多くなった。
けれどもリザの横で眠るときの顔はいつまでも変わらない。
たとえば仮眠室などで独り寝をするときに、彼が熟睡することは決してなかった。眉間にしわを寄せ、意識の一部を常に緊張させたまま、ドアの外に人の気配を感じただけで起き上がっていることをリザは知っていた。
彼がこんなふうに穏やかな表情で眠るのは、リザと同じ布団の中に限られていた。リザの傲慢な自尊心はそれを密かに喜んでいる。一方で、自分を放置していつまでも眠りこけている男に少々不満も感じる。せっかくの休みなのに。
少し痩せた頬に手を当てた。むにむにとつまんで引っ張ってみたが、彼が目覚める気配はなかった。諦めてその頬に口づけを落とす。朝食ができたらまた起こしにこよう。
リザは部屋着を手早く着ると、脱ぎ散らかしていた下着やパジャマを洗濯機にいれた。おそらく彼はシャワーを浴びるだろうし、洗うのはそのあとでいい。
厚切りの食パンにバターをたっぷり塗って、温めたトースターに入れた。茄子とトマトを乱切りにして塩こしょうをふり、みじん切りのニンニクとざく切りのベーコンと一緒に多めのオリーブオイルで炒める。ケトルでお湯を沸かしている間に、リザはドリッパーにペーパーフィルターをセットした。挽いたばかりのコーヒー豆にお湯を注ぎ、少し蒸らして膨らませる。少なめのお湯で濃いめのコーヒーを淹れて、リザはドリッパーをはずした。
ミルクパンで多めの砂糖を入れた牛乳を温めていると、酷い寝癖をつけたまま、ロイがキッチンに入ってきた。後ろからリザをハグして、その頬に口づける。
「おはよう、リザ」
まだ寝ぼけたような声で、ロイはそう囁いた。
「起きたらいなくて寂しかった」
「そろそろ起こしにいこうと思っていたところです」
軽いキスを返すと、ロイはそのまま深い口づけを求めてきた。それを一旦押しとどめて、ミルクパンを火から外す。
「キスは嫌?」
「牛乳を沸騰させたくないだけです」
「ふうん」
キスの続きをするのかと待っているのに、ロイが触れたのはリザの頬だった。まず右、それから左。鼻先を擦りあわせて今度こそ、と思うと、わざと外してあご先に。
「ちょっと大将」
「ん? 何?」
素知らぬ顔をして、ロイはとぼけた。
「意地悪するとオムレツ作ってあげませんよ」
「それは困る」
「だったら」
「君からしてほしい気分なんだ」
ぬけぬけとそう言った男を、リザは睨んだ。それから両腕を男の首に絡ませると、リザは噛みつくようなキスをした。
いつもと同じ時間に起きたリザは、何も身につけず寝入ってしまったことに気づいて肩をすくめた。
会議や残業続きで、プライベートが疎かになっていたのは確かだ。しかしいくら休みの前夜だからといって、気を失うまで何度も睦み合うというのはいかがなものだろうか。
長いつきあいの中で、夜を共にすることももはや生活の一部に等しいというのに、何年経とうと彼の愛情表現は未だ衰え知らずだった。
階級があがって、部下が増えた。責任も重くなった。職場で軽口を叩くような機会はめっきりと減り、険しい顔で考え込むことが多くなった。
けれどもリザの横で眠るときの顔はいつまでも変わらない。
たとえば仮眠室などで独り寝をするときに、彼が熟睡することは決してなかった。眉間にしわを寄せ、意識の一部を常に緊張させたまま、ドアの外に人の気配を感じただけで起き上がっていることをリザは知っていた。
彼がこんなふうに穏やかな表情で眠るのは、リザと同じ布団の中に限られていた。リザの傲慢な自尊心はそれを密かに喜んでいる。一方で、自分を放置していつまでも眠りこけている男に少々不満も感じる。せっかくの休みなのに。
少し痩せた頬に手を当てた。むにむにとつまんで引っ張ってみたが、彼が目覚める気配はなかった。諦めてその頬に口づけを落とす。朝食ができたらまた起こしにこよう。
リザは部屋着を手早く着ると、脱ぎ散らかしていた下着やパジャマを洗濯機にいれた。おそらく彼はシャワーを浴びるだろうし、洗うのはそのあとでいい。
厚切りの食パンにバターをたっぷり塗って、温めたトースターに入れた。茄子とトマトを乱切りにして塩こしょうをふり、みじん切りのニンニクとざく切りのベーコンと一緒に多めのオリーブオイルで炒める。ケトルでお湯を沸かしている間に、リザはドリッパーにペーパーフィルターをセットした。挽いたばかりのコーヒー豆にお湯を注ぎ、少し蒸らして膨らませる。少なめのお湯で濃いめのコーヒーを淹れて、リザはドリッパーをはずした。
ミルクパンで多めの砂糖を入れた牛乳を温めていると、酷い寝癖をつけたまま、ロイがキッチンに入ってきた。後ろからリザをハグして、その頬に口づける。
「おはよう、リザ」
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- ┣ - うちのお父さん
- ┣ - 彼女の親友
- ┣ -2016年9月~12月
- ┣ -2017年1月~5月
- ┣ -父親の背中
- ┣ -うちの副官
- ┣ -恋人指南
- ┣ -エスコート
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