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「中尉と大佐」
- 中尉と大佐 (2)

大佐と少佐|3

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「失礼します。」
 顔に似合わず丁寧なノックと物腰で、病室にアームストロング少佐が入ってきた。
「お加減はいかがですかな。」
「問題ない。」
 ロイはファルマンにこっそり差し入れさせた18禁の写真集を枕の下に隠して、生真面目な顔で頷いた。
「そうですか。それはよかった。」
 少佐はにっこり笑うと、このあたりで1番大きな本屋の名前が入った茶色い袋を渡した。
「これは差し入れです。」
 そう言って人差し指を唇に当てる。
「ホークアイ中尉には内緒で。」
 ロイは袋を開けて中を覗いた。
 ・・・なるほど。今、隠したものより肌色が多そうだ。
「少佐。俺にはないんすか?」
 隣のベッドで暇そうにしていたハボックが口を尖らせて言った。
「もちろんあるぞ。ハボック少尉は巨乳派でしたな。」
「・・・いや、当分ボインはいいっす。」
 ハボックが情けない顔で目をそらしたので、少佐は首をひねった。
「じゃ不要でしたかな?」
「いや、やっぱいります。ください。」
 少佐はニヤリと笑って、ハボックにも同じ本屋の袋を渡した。
「ホムンクルスと戦ったとか。」
 少佐はそう言って、ロイのベッドのそばにあった丸いすに窮屈そうに座った。
「よくぞご無事で。」
「けがはたいしたことない。それより自分で腹を焼いて止血したんだが、そっちの火傷の方が重傷だ。」
 ロイは肩をすくめた。
「さすがに終わったあとは気絶してな。中尉が泣いて大変だった。」
 ロイはそう言って少し口角を上げた。
「内緒だぞ。」
「愛されてますな。」
 少佐は重々しく頷いた。
「しかし敵と接触したと言うことは・・・ヒューズ准将のことは?」
 ロイは首を振った。
「今回のやつではなかった。」
「そうですか。」
 少佐はため息をついた。
「・・・今さらこんなことを言っても仕方ありませんが、もし我が輩が・・・」
「くだらん仮定はやめたまえ、少佐。そんなことを言ってもどうにもならんしそれに・・・」
 ロイは辛そうに眉をしかめ、言い淀んだ。
「それに・・・思ってしまうじゃないか。もしかしたら・・・、と。私は君を責めたくはないぞ。」
「すみません。余計なことでしたな。」
 少佐はそう言って目を落とし、居心地悪そうに手の指を組み直した。
「ロス少尉は元気だったか?」
 ロイが話題を変えると、少佐はほっとしたように顔をあげた。
「はい。大佐に感謝していました。命を助けていただいた、と。」
「そうか。」
 ロイは頷いた。
「申し訳なかったな。この国を追い出すような真似をしてしまった。」
 そう言ってロイはため息をついた。
 ロス少尉はヒューズ准将殺害の容疑者として名指しされ、処刑されるところだった。
 証拠も根拠も言いがかりとしか思えなかった。どうして彼女の名前が挙がったのかその理由すらわからない。
 それでも彼女を公式に釈放することはできなかった。
 彼女を殺したことにして国外に逃亡させる。それ以外の手段はなかった。
「仕方ありません。犯罪者の汚名を着せられて、殺されるところだったんですから。」
 少佐はため息をついた。
「敵は・・・この国の中枢に入り込んでるな。」
 独り言のように、ロイは言った。
 その言葉に少佐も同意した。
「やってもいない犯罪を無関係の人間にかぶせて、それを公式にしてしまうのですから、そこらへんの下っ端にできることではありません。」
「そうだな。それも1人や2人じゃない。組織ぐるみのものだ。」
 ロイはイライラと前髪をかきむしった。
「ヒューズは何に気づいたんだろうな。」
 これまで何度も思った疑問を、再びロイは口にした。
「・・・わかりません。」
 少佐にもその問いの答えは見当もつかなかった。
「気をつけろよ、少佐。私も君も既に知りすぎた人間だ。」
「肝に銘じます。」
「ところで少佐。この本だがな・・・せめて表紙は偽装した方がいいんじゃないか?」
 ロイは少佐の差し入れを引っ張り出した。
「別の表紙をかけときゃいいじゃないですか。」
 ハボックが横から口を出す。
「うるさいな。こんな話にばかりのってきやがって。」
「俺は下っ端ですし。」
「錬金術書にでも見せかけときましょうかな。」
「少佐!俺のもお願いします!」
「バカか。貴様が錬金術書に偽装してどうする!猫特集にでもしとけ!」
「・・・いや、犬猫はまずいっすよ。中尉に見られたらどうすんですか。」
 その時、律儀にトン、トン、トンと3回ノックがあり、男たちは慌てて本を布団の中に隠した。
「失礼します。」
 リザ・ホークアイ中尉は病室に入って敬礼し、不自然に目をそらす男たちを見て眉を寄せた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも。」
 ロイはこほんと咳をした。
「それでは我が輩はこれで。」
 少佐は大きな体を縮めるようにしてこそこそと部屋を出て行った。
「それより中尉、どうかしたのか?」
「いえ別に。一度司令部に戻らなければならないので、それをお伝えに来ただけです。」
「そうか。わかった。気をつけてな。」
「ありがとうございます。・・・あ、それともう1つ。」
 中尉が艶やかな笑みを浮かべたので、ロイとハボックは反射的に身構えた。
「別に内緒にしなくても怒ったりしませんよ。」
 中尉が出て行くと、ロイは思わず布団に突っ伏した。
「ばれてる!」
 ハボックは肩をすくめると、誰にはばかることもなく、少佐の差し入れを堪能することにした。

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